2017 Fiscal Year Annual Research Report
フローベール作品における19世紀の宗教知の摂取と表象
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17H07220
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
中島 太郎 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (70802867)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | フローベール / 宗教の表象 / 19世紀フランス |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は主に資料調査・収集に重点をおいた。フローベールの宗教関連読書について、刊行された書簡、データベース化された草稿資料等を軸に作品に用いられた資料を調査した。必要に応じて国内外の図書館で資料調査を行った。とりわけパリのフランス国立図書館では国内で入手困難な関連資料の閲覧・複写を行った。 宗教と科学のテーマを探るうち、19世紀フランスにおける(反)プロテスタンティズムの問題が浮上した。それとともに当時のドイツ経由の「合理主義」がフローベールに及ぼした影響が浮き彫りになった。とりわけルナン、モーリー、ミシュレ、さらにスピノザらの「科学」が、フローベール作品の反宗教的、合理主義的な側面にどのように影響を及ぼしているか考察した。 具体的な研究成果は以下の通り。1)『近代フランス小説の誕生』(水声社、植田祐次監修)に論文「『ブヴァールとペキュシェ』における殉教者の挿話―ヴォルテールの読書ノートを中心に」を掲載。2) 日仏会館人文社会系若手セミナー(2017年7月)において思想系の研究者とともに「フローベールにおける宗教と科学:二つのフランスの戯画」と題して発表。『ブヴァールとペキュシェ』における二つの言説の対話的構造(信仰と知、宗教と科学、教権主義と反教権主義)を考察。3) 立教大学における科研研究会(菅谷憲興教授主催)において、『ブヴァールとペキュシェ』9章における反プロテスタンティズムの表象について発表。4) 項目執筆で参加していたDictionnaire Flaubert(ジゼル・セジャンジェール監修、Honore Champion出版)が2017年11月にフランスで刊行。5)以前より準備中であった対訳書『ギュスターヴ・フローベール 純な心』(大学書林語学文庫)を大学書林より刊行。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『聖アントワーヌの誘惑』と『ブヴァールとペキュシェ』を中心にフローベールの宗教関連資料を明らかにすべく、様々な角度から研究を進めている。宗教史やライシテ研究にも依拠しつつ、フローベールの宗教知を、19世紀の宗教史や脱宗教化との関わりにおいて捉えなおす。本年度はとりわけ、フローベールにおけるプロテスタンティズムの問題、またドイツ流の合理主義のフランスへの移入に着目した。宗教の読書ノートの一要素である反プロテスタンティズムは、『ブヴァール』9章における司祭の形象(反科学、反近代、ド・メーストル)を考える上で重要である。反教権主義、無神論、理神論のみならず、唯物論、スピリチュアリズム、汎神論、スピノザ主義、自由主義、広義のロマン主義まで、19世紀のあらゆる思潮が宗教と結びついている。その意味で、近年のフローベールと哲学に関する研究も重要であり、今後さらに参照していく必要がある(山崎敦、ジュリエット・アズレーらの先行研究)。 一方、19世紀における司祭のテーマを通じて文学と歴史学(宗教史、思想史、社会史、文化史)の横断を目指しており、Dictionnaire Flaubert(2010年より準備開始、2017年11月刊行)では関連項目を担当した(司祭、イエズス会、ド・メーストル、ブールニジアン神父、ジュフロワ神父、犠牲、異端、教義)。 なお、最近日本で発見されたフローベールの未公開書簡(一橋大学社会科学古典資料センター所蔵)をルーアン大学のイヴァン・ルクレール教授(フローベールセンター所長)に伝えたところ、フローベールのサイトに公開する運びとなった。また、フランス滞在中にジゼル・セジャンジェール教授とコンタクトを取り、今後は博士論文の出版も視野に入れつつ研究を進めることとなっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査活動を補完しつつ、作品の解読と成果発表を行う。作品における宗教資料の使用から見られる独自性を探り、19世紀の歴史的コンテクストに位置づける。以上を国内外の関連する学会や研究会で発表し、同分野の研究者と情報交換を行う。基礎研究として、引き続き資料収集と整理を行う。資料調査で整理したデータをHPで公開、もしくは国内外の学会や刊行物で発表し、社会的還元に努める。 前年度の源泉研究に基づき、宗教関連の読書および資料作成の時期を特定する。それぞれの資料体の特徴から、フローベールが何を目的として各資料にアクセスし、どのような形で獲得した知を用いたのかを明らかにする。最近の先行研究にも依拠しつつ、フローベール作品の詩学を、19世紀の宗教史および脱宗教化との関わりにおいて捉えなおす。また、19世紀フランス文学における司祭のテーマを通じて、文学・宗教・歴史の表象を軸とした横断的な研究を目指す。 それと並行して、フランスで提出した博士論文を出版するための準備を進める。書誌情報の更新、不足している部分の加筆、文章全体の校正などに時間をあてる必要がある。なお、Dictionnaire Flaubert(2017年)の監修を努めたジゼル・セジャンジェール教授より、フローベール全集の一部をなす初稿『聖アントワーヌの誘惑』(1849年)の校訂版への協力要請を受けた。そのため今後、草稿の整理、読解等の準備が必要となる。それに関連して、上記のセジャンジェール教授を日本に招聘し、具体的な打ち合わせを行う予定である。
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[Book] Dictionnaire Flaubert2017
Author(s)
Gisele Seginger, Norioki Sugaya, Yvan Leclerc, Juliette Azoulai, Jeanne Bem, Jean-Louis Cabanes, Philippe Dufour, Didier Philippot, Joelle Robert, Francis Lacoste, Kayoko Kashiwagi, Atsushi Yamazaki, Atsuko Ogane, Mitsumasa Wada, Kosei Ogura, Sarga Moussa, Jacques Neefs, Pierre Louis-Rey, Taro Nakajima、他
Total Pages
1778
Publisher
Champion