2017 Fiscal Year Annual Research Report
史的文献研究と現代方言研究を統合した漢語常用語彙研究
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17H07224
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
鈴木 史己 南山大学, 外国語学部, 講師 (20803886)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 言語地理学 / 漢語方言 / 漢語語彙史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、言語地理学的手法による現代方言研究と、史的文献研究を統合して、中国語における常用語彙の歴史的変化を分析するものである。史的文献研究と言語地理学的研究を高度な水準で統合することを目的として、基礎研究と応用研究の二段階を設定し、1年目にあたる本年度は基礎研究の段階と位置付けた。基礎研究の主たる工程は、言語データを整理・収集しながら分析対象を選定し、現代方言研究と史的文献調査を統合した個別事例を蓄積することである。 個別事例として、具体的には中国語方言における「鉄(iron)」「雨が降る(It rains)」を表す言語形式などをとりあげて研究を進めた。これらの項目の中国語の言語形式は、アジア諸語において借用現象が観察されるため、他言語との比較研究に資料を提供するものとしても意義が認められる。本研究の方法論にしたがって、まず言語地理学的手法による共時的分布の分析・解釈を行い、その成果はすでに東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所より電子刊行物として発表されている(「雨が降る」については近刊予定)。 これらの項目のうち、現代方言における「鉄」は、単音節語形の一様分布を示し、通時的にみても語彙差がほとんど無いため、語彙史研究の典型的な分析対象とはならなかった。「雨が降る」を表す言語形式は、現代方言においては南北対立を示し、史的文献の用例を調査すると、語彙交替とともに統語構造の変化も観察されることがわかった。ただ、この史的文献調査の結果をふまえ、言語地理学的研究と統合した論考としてまとめるまでには至らなかったため、両者の統合に力を注ぐことが今後の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は言語地理学的研究と史的文献研究を両輪とした方法論が特長であり、従来の文献的語彙史研究にはなかった言語地理学的研究の角度からアプローチすることを原則としている。これまでのところ、言語地理学的研究はおおむね順調に蓄積できている一方、史的文献研究及び両者の統合の作業が遅れているため、本研究全体の進捗状況としては「やや遅れている」と評価する。 方言研究と文献調査の結果は必ずしも一致しないが、その不一致をもたらした原因を探ることで新たなメカニズムが発見されることが期待され、それによってさらに精度の高い通時的変化が得られることが予想される。したがって、とりあげた分析対象で必ずしも両者の調査結果が合致しないことは想定内であるが、一方で統合が成功した典型例を示すこともまた本研究の目的の一つであった。分析対象の選定に手間取ったことが研究の遅れをもたらした主たる原因であるが、本年度にとりあげた語彙項目「鉄」「雨が降る」などのうち、方言研究と文献調査の統合という観点からみれば、「雨が降る」が典型的な分析対象として適合する可能性があることがわかった。上記「研究実績の概要」で述べたように、「雨が降る」を表す言語形式については、言語地理学的分析が完了しており、史的文献研究の基礎調査もほぼ完了している状況にある。この分析結果を軸として、本研究が設定する応用研究の段階、すなわち、史的文献における語彙交替のメカニズムと現代方言に見られる現象との関連性、史的文献において観察される同義衝突現象についての分析を進めることが可能と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
言語地理学的研究と史的文献研究の統合を視野に入れた分析対象の選定の遅れが問題であったが、典型的な個別事例となりうる研究にすでに着手しているため、引き続き分析にとりくむ。また、典型例とはならずとも、方言研究と文献調査の結果の不一致も本研究を推進する要素となりうる。そのため、スワデシュ(M. Swadesh)による基礎語彙リストを目安として、事例を増やすことを優先して研究を進める。スワデシュの基礎語彙リストは、本来は言語年代学研究に用いられたものであるが、ここでは分析対象選定のための参照枠の一つとして考える。この語彙リストを参照することで、他言語との関連も視野に入れることが可能となろう。 言語地理学的研究については、2016年度より東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「アジア地理言語学研究」に参加している。2018年度は研究会は開催されず、研究成果の発表に専念するとのことであるが、このプロジェクトの作業を通して、現代漢語方言の言語地理学的研究を推進するとともに、アジア諸語を俯瞰する視点からの分析も目指したい。 史的文献研究については、唐五代に成立した禅語録『祖堂集』を輪読する研究会(祖堂集研究会)に参加している。唐五代は中国語語彙史・文法史において大きな転換がおこったとされる時期であることから、当時の口語・俗語で記録される『祖堂集』は中国語史の基礎資料とされる。この研究会は文献研究の基礎的訓練の場であるとともに、研究交流の場ともなり、本研究推進の助けとなろう。
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Research Products
(2 results)