2017 Fiscal Year Annual Research Report
戦前の東京市における教育救済事業と特別学級編制に関する歴史的研究
Project/Area Number |
17H07227
|
Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
石井 智也 日本福祉大学, スポーツ科学部, 助教 (90803502)
|
Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
|
Keywords | 教育救済事業 / 特別学級編制 / 東京市 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では戦前の東京市によって実施された教育救済事業が子どもの発達と生活改善を保障するものであったかを検討し、その一環として実施された特別学級編制において、貧困・児童労働・疾病・栄養失調・非行など多様な発達困難をもつ子どもに対してどのような特別な教育的配慮が行われたかを明らかにすることを目的としており、研究の視点に従って以下の作業を行った。 ①戦前の特別学級に関する先行研究、東京市の特殊小学校・小学校簡易科・貧児救済事業に関する先行研究のレビューを通じて、戦前期の子どもの就学督励に関わって、学習困難、健康不良、栄養失調、貧困などの多様な子どもの発達困難とその教育についてどのように捉えられているかを検討した。 ②1900(明治33)年の小学校令改正以前の東京市域において多様な初等教育機関(私立小学校・小学簡易科・夜学校等)が、近代化・都市化・産業化のなかで深刻化する「貧困・児童労働・不就学」等の多様な教育的困難を有する子どもに対して、いかなる教育的対応を実施していたのかを明らかにした。 ③1900(明治33)年の小学校令改正以降、東京市による公立尋常小学校の増設や就学督励策の推進がなされる中で、教員不足により二部教授・過大学級や子どもの学習困難や疾病・健康問題が深刻化する。こうしたなかで、公立尋常小学校とは別種の小学校である「特殊小学校」「特殊夜学校(夜間小学校)」がいかなる教育的対応を実施していたかを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①で挙げた戦前の教育救済事業と特別学級に関する先行研究のレビューについては、2017年の『日本特殊教育学会第55回大会』で研究発表を実施した。 ②で挙げた1900(明治33)年以前の東京市域内において多様な初等教育機関における子どもの「貧困・児童労働・不就学」への教育対応については、2017年の『日本教育学会第76回大会』で研究発表を行い、学会誌に論文投稿を実施した。 ③で挙げた1900(明治33)年以降の東京市における多様な初等教育機関における子どもの「貧困・児童労働・不就学」への教育対応については、2017年の『日本特別ニーズ教育学会第23回研究大会』で研究発表を行い、学会誌に論文投稿を実施した。 また、研究課題に関する史資料の収集については、国会図書館・東京都公文書館・東京大学図書館などで実施した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1910年代までの東京市の教育救済事業についてこれまで検討をしてきたために、平成30年度は主に1920年代以降の東京市における教育救済事業の展開を検討する。具体的には以下の作業を実施する。
①第一次世界大戦が終了する1918(大正7)年ころから、東京市においては都市の近代化に関する政策が練られるようになり、公立小学校においても、貧困・児童労働・疾病・栄養失調・非行などの多様な児童を含めた教育改善事業が本格的に実施されるようになる。そこで、1920年前後において、東京市によって実施される都市政策や児童保護・教育救済事業、多様な困難を持つ子どものための特別学級編制の実態を明らかにし、こうした一連の政策や実践が多様な背景・困難をもつ子どもの学力回復や生活改善にどのような影響を与えていくかを検討する。 ②1923(大正12)年の関東大震災の発災以降、教育復興事業を通じて実施された復興小学校の建築事業、学校衛生の拡充、貧児教育機関の改善、多様な困難をもつ子どもの特別学級の設置等の教育救済事業を検討し、これらの教育救済事業と特別学級編制が子どもの学力回復だけでなく、子どもの健康・発達・生活の改善を図るものであったことを明らかにする。 ③1930年代以降の総力戦・戦時体制において「人的資源の保護・育成」「健民健兵政策」が色濃くなり、その観点から虚弱児童のための特別学級(養護学級)が急激に増加するが、こうした学級は子どもの劣悪な生活環境の改善というよりは、戦争遂行のために不可欠な手段として多量に設置されてきた。こうしたなかで、従来より設置されてきた多様な困難を持つ子どものための特別学級が、どのように変容していくのかを検討する。
|