2017 Fiscal Year Annual Research Report
大学教育の「洗い流し」を阻止する中等社会系教員養成カリキュラムの開発研究
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17H07290
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Research Institution | Tokuyama University |
Principal Investigator |
大坂 遊 徳山大学, 経済学部, 講師 (30805643)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 教師志望学生の力量形成 / 教員養成カリキュラム / 洗い流し / Rationale Development / 社会科教育 / 各教科の指導法 / セルフ・スタディ / 協同的な授業研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
中等社会系教科の教員養成教育における課題として,学生自身が高校までに学んできた経験に規定された授業イメージを再生産してしまう「洗い流し(Washed-out)」問題がある。この課題を解決するため,本研究では①同様の問題に対処する理論として欧米諸国で注目されている「Rationale Development(合理的根拠付けの形成)」の資質・能力概念をとり入れた養成カリキュラムを調査し,②この理論に依拠した養成カリキュラムモデルを開発し,実際に所属大学の教職課程の学生を対象に試行する。これが2年間を通した研究目的であった。 まず,①の理論的側面の調査・研究においては,研究代表者が想定する「Rationale Development」の概念を取り入れた教員養成を推進していると判断される米国ボストン大学教育学部を訪問し,当該の社会科教員養成カリキュラムの実態調査を行った。その結果,当概念の重要性が米国社会科教師教育の文脈において広く共有されていることや,「Rationale」を形成する社会科教師教育を担う人材が自身の現職教員時代の経験を重視するという姿勢を確認することができた。また,その後ボストン大学の教員M氏を日本に招聘してシンポジウムやセミナーを主催し,米国社会科教員養成や教師教育の動向に関する理解がさらに深まった。 また,②の実践的研究においては,当初調査対象としていた国内他大学の教員らとともに,「Rationale Development」の概念を下敷きにした協同的な授業研究を実施した。研究代表者が所属する徳山大学においても,社会科教育法の授業において,「異質な他者との対話を通して自己の社会科教育観を省察する」というコンセプトの実践を行い,欧米などで注目されている「セルフ・スタディ」を応用した協同的な授業研究の取り組みが社会科教員養成において有効に機能することが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては,当初「Rationale Development」概念についての調査・研究を進展させることのみを計画していた。しかし,全国社会科教育学会を始めとする学会や他大学の教員からの研究趣旨への賛同と支援を得られたこともあり,次年度に実施予定であった「Rationale Development」概念に着想を得た実践的研究についても,前倒しして同時並行的に実施することができた。 これらの成果は,当該年度中に第66回全国社会科教育学会全国研究大会、第2回日本教師教育学会「研究推進・若手交流支援」企画、広島大学教育ヴィジョン研究センター研究拠点創成フォーラム等で発表し,多くのフィードバックを得ることができた。加えて,国内外の研究者から共同研究・調査の提案を受けるなど,その後の調査・研究につながる多くの人的ネットワークを構築することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は,大きく3つの調査・研究活動を推進することを想定している。 第一に,「Rationale Development」概念についての調査・研究成果の発信である。当該年度の調査の成果を徳山大学の紀要に投稿することに加え,「Rationale Development」概念のさらなる文献研究を進め,その成果を全国社会科教育学会全国研究大会にて発表することを想定している。 第二に,「Rationale Development」概念に着想を得た実践的研究の発信である。当該年度の研究代表者の実践の成果を徳山大学の紀要に投稿することに加え,他大学の教員らと共に実施した協同的な授業研究の成果を,全国社会科教育学会の英文雑誌に投稿し,国際的に発信することを目指す。 第三に,「Rationale Development」概念に基づく教員養成カリキュラムの改善である。当該年度の成果をふまえて,研究代表者の所属する徳山大学を事例として,教職課程カリキュラムを「合理的根拠(Rationale)を形成することを支援する教員養成カリキュラム」へと修正・改善することを試みたい。
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Remarks |
研究代表者は本務校である徳山大学とは別に,広島大学大学院教育学研究科に教育研究推進員として所属している。広島大学において,主として担当している「教育ヴィジョン研究センター」の公式ウェブサイトや教育学研究科において,研究代表者が本科研の業務として従事した活動に関する案内や報告(文章は研究代表者が作成)が掲載されているため,本項ではこれらを研究成果物として記載する。
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