2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H07312
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
宮川 幸奈 熊本学園大学, 経済学部, 講師 (90806035)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 教育哲学 / 進化 / 自律 / 責任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、教育(哲)学の重要概念である自律と、その構成要素とも言える責任の概念について、進化的アプローチによって検討し、それらの概念に関わる教育的実践の意味をとらえ直すことを目的としている。初年度に当たる平成29年度は、以下の二つの作業を行った。 第一に、人間について進化的アプローチによって研究している科学・哲学の知見を踏まえて、教育学的自律概念について検討した。具体的には、進化的アプローチを採用する科学者・哲学者も多く支持している、二重過程理論に基づいて自律概念を分析した。二重過程理論とは、人間の心の働きを認知・情報処理のための二つのシステムによって説明する理論である。この理論の言う「システム1」は、直観的で意識の働きを必ずしも必要とせず、進化的に古く、ヒトが他の生物と共有している過程だとされる。他方「システム2」は、熟慮的で意識の働きを必要とする過程であり、これを発達した形で備えているのはヒトのみだとされている。本研究では、二重過程理論を参照することによって、自律概念について、従来の教育(哲)学研究ではあまり注目されていなかった側面を明確に描き出した。すなわち、従来の自律に関する議論が、システム2と重なる意識的な理性の働きを強調してきたのに対して、システム1と重なる感性や無意識の働きもまた教育学的自律概念の不可欠な要素であることを確認した。 第二に、進化的アプローチを人間研究に導入することの意味や妥当性について、自然主義の観点から検討した。哲学における自然主義とは、科学的知見や科学的方法を用いながら哲学をすることを指しており、進化的アプローチをそのうちに含んでいる。1960年代以降、英語圏を中心に盛り上がりを見せている自然主義の意義がどのように論じられているかを確認し、その教育哲学的な意義について考察を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度である平成29年度の研究は「おおむね順調に進展している」。 この進展は、進化的アプローチによって自律・責任概念とそれに関わる教育的実践をとらえ直そうとする本研究を、自然主義という哲学上の立場のうちに位置付けることによってもたらされた。英語圏で盛り上がり、近年は日本でも関心が高まっている自然主義の諸議論を参照することによって、本研究の見通しはより明瞭になった。自然主義的な哲学者からも支持を集める二重過程理論に着目することによって、教育学的自律概念を従来の教育哲学研究とは異なる角度から問い直すことができた。この成果については既に論文を執筆し、投稿中である。 ただし、自律概念に関する研究が進展した一方で、責任概念に関する検討は不十分であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、以下の作業に取り組んでいく。 第一に、前年度に引き続き、進化的アプローチによって責任概念について検討する。 第二に、個体発生の進化や教育の進化に関する研究を検討する。進化的アプローチは、諸生物の個体がそれぞれに「一人前」の成体になるために他個体や外界と関わる仕方や、未熟な個体に成熟した個体が関わる仕方自体が、進化の過程で変化してきたことを明らかにしようとしている。認知科学や発達心理学、それらを踏まえた自然主義的哲学の議論を参照し、個体発生の進化や教育の進化に関して議論されている内容を確認する。 第三に、本研究全体の総括として、人間が自律した人間・責任を問われ得る人間として振る舞うようになる過程と、その過程における大人(教育者)の役割について、進化的アプローチによって検討する。この作業は、①自律した人間や責任を問われ得る人間であることの内実について進化的アプローチを踏まえて問い直した後、②人生の初期には自律した人間・責任を問われ得る人間とは見なされていなかった子どもが、自律・責任概念に関わる実践に参入していく過程で起きていることを明らかにする、という順序で進めていく。子どもが自律・責任概念に関わる実践に参入する過程で大人(教育者)が果たしている役割については、上記の第二の作業を踏まえて考察を深める。 これらの研究成果を学会発表及び論文として報告するにあたっては、進化的アプローチを教育(哲)学へ新たに導入することの意味や、導入に際して考慮すべき論点も整理し提示していくこととする。
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