2017 Fiscal Year Annual Research Report
Improvement of radiation degradation prediction accuracy of solar cell by elucidation of influence factor of displacement threshold energy
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17H07355
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
奥野 泰希 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 博士研究員 (00805400)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 太陽電池 / はじき出し閾値エネルギー / 照射損傷 / 性能劣化 / 電子線照射 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、人工衛星の動力源として太陽電池が利用されているが、人工衛星は高エネルギーの電子と陽子に満ちたヴァン・アレン帯を通過するため、これらの放射線の影響で太陽電池の起電力は低下する。ミッション終了までの期間必要な電力を供給する必要があるため、太陽電池の劣化予測は工学的に重要である。現在人工衛星に使用されている3接合太陽電池には、インジウムガリウムリン(InGaP)太陽電池が使用されており、これまでの劣化予測モデルでは125 keV未満のエネルギーの電子は理論的にInGaP太陽電池の劣化に寄与しないと考えられてきた。一方、申請者は、60 keVの低エネルギー電子線照射によってInGaP太陽電池の劣化が生じることを突き止め、これがこれまで定数と考えられてきた電池中のPのはじき出し閾値エネルギー(Ed)の変化に起因していることを発見した。しかしEdの変化の具体的原因に関してはいまだ未解明である。そこで本研究ではEdが太陽電池の材料に依存しているという仮説を実験的に検証し、これを元に新たな劣化予測モデルを構築することを目的とした。 該当年度において、照射環境の整備および試料の購入を行う予定である。照射環境では、大阪府立大学のコッククロフト・ウォルトン型電子線加速器による電子線照射環境に関して、試料温度の制御システムや、試料照射用治具の整備を行った。また、試料調達においては、InGaP太陽電池を購入した。また、材料依存性を考慮するため、元素を一つ増やしたアルミニウムインジウムガリウムリン(AlInGaP)太陽電池を、JAXAより提供して頂いた。次年度では、この2種類の半導体へ、低エネルギー電子線を照射することにより、半導体中の種類の数に対する太陽電池の劣化傾向の違いを解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に予定していた研究計画は、①太陽電池の提供、②太陽電池の購入③加速器の利用申請および整理の3つである。以下に3つに関しての進捗状況を記載する。 ①太陽電池の提供においては、研究協力者のJAXA今泉氏の協力の下、AlInGaP太陽電池を提供していただいた。試料の大きさは、 1 平方cmであった。また、試料表面がベア構造のため、そのままの構造で電子線照射による劣化を観察できる構造であった。また、提供されたAlInGaP太陽電池の特性を、測定するための光電流電圧測定の装置を作製した。作製した装置を使用して、AlInGaP太陽電池の特性を取得したところ、すべての試料において、太陽電池の発電効率が10%を超える性能を有していることが明らかになった。 ②太陽電池の購入において、MO産業の協力の下、InGaP太陽電池となる4インチのInGaP半導体のp-n接合ウエハーを購入した。構造の詳細では、GaAs基盤上に、p層1 μmおよびn層30 nmのInGaPをエピタキシャル成長させた仕様となっている。キャリア濃度に関しては、p層が17乗のドーパントを注入し、n層には、18乗のドーパントを注入した。 ③加速器の利用申請において、大阪府立大学(OPU)コッククロフトウォルトン型電子線加速器は60 - 600 keVの連続的にエネルギーが変更可能な加速器である。本年度は、研究協力者の大阪府立大学秋吉先生の協力により、この加速器に関しての利用手続きを行った。また、試料の照射のために、試料温度の制御システムの整備や、絶縁ガスの補充が必要であることが明らかになった。そのため、試料温度測定用の温度モニターを購入し、加速器に導入できるように整備した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、①太陽電池の試料の加工、②加速器による照射試験、③試料中の照射欠陥の解明の3つである。以下に3つに関しての推進方策を記載する。 ①太陽電池の試料の加工において、JAEAでは、試料加工用装置としてフォーカスイオンビーム(FIB)がある。FIBは、直径数nmのガリウムイオンビームを試料へ照射することにより、試料表面を数nmの精度でスパッタすることが可能である。InGaPウエハーについては、4インチから、2平方mmの範囲にFIBにより切り出す。AlInGaP太陽電池については、1平方cmから、2平方mmの範囲にFIBにより切り出す。 ②加速器による照射試験において、大阪府立大学のコッククロフト・ウォルトン型電子線加速器で照射試験を行う。まず、試料へ照射される線量を評価するため、試料照射用治具を用いて線量評価を行う。そして、均一な線量で試料に照射できることが確認された場合、試料へ電子線を照射する。試料の劣化を観察するために、電子線の照射前後で、試料の電流電圧特性について取得する。 ③試料中の照射欠陥の解明において、深い順位静電容量過渡応答スペクトル(DLTS)を測定することにより太陽電池に生成された欠陥を取得する。DLTSを取得するためには、太陽電池の静電容量を2000pC以内にする必要がある。これまでの研究では、2平方mmの試料面積の静電容量は、この静電容量の制限の範囲に収まることが明らかである。そのため、①で実施される試料の加工ができた場合、照射されたサンプルによるDLTSによる測定が可能となる。DLTSは、研究協力者の豊田工業大学山口先生の協力により取得する。
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