2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17H07415
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Research Institution | Ministry of Finance, Policy Research Institute |
Principal Investigator |
木村 遥介 財務省財務総合政策研究所(総務研究部), 総務研究部, 研究官 (10805592)
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Project Period (FY) |
2017-08-25 – 2019-03-31
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Keywords | 株主 / 企業 / リスクテイク / プリンシパル・エージェント |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度において、本研究では(1)理論分析と(2)データの整理と予備的な分析を行った。 (1)理論分析では、契約理論のプリンシパル・エージェントモデルを応用して、大株主のリスク選好と企業のリスクテイク行動の関係について分析した。プリンシパル・エージェントモデルでは、株主が経営者の努力水準を観測できない状況において、株主にとって最適な経営者の行動を導くような契約を求めることができる。本研究では、支配株主のポートフォリオがどれほど分散されているかを外生的に与えたとき、その分散の程度が経営者報酬の契約を通して、どのように経営者のリスクテイク行動に影響を与えるかを分析した。結果として、支配株主のポートフォリオがより分散されているとき、個別企業のリスクに対するエクスポージャーが小さくなるため、経営者がより大きなリスクをとるような契約を結ぶ。このとき、経営者の報酬が企業のパフォーマンスにより大きく反応するような契約となることを示した。この理論モデルについて、東京大学で行われた「金融ジュニアワークショップ」において報告を行った。 (2)日経NEEDS FinancialQUESTより、大株主データを取得し簡単な分析を行っている。上記データより上場企業の大株主の構成について、大株主の名称や保有株式数、株主が属する部門などの情報を得ることができる。これらの情報を用いることで、それぞれの大株主がどの企業の株式をどれだけ保有しているか、すなわち株式ポートフォリオを推測することができる。今後の実証分析に利用する予定であるが、予備的な分析により、株主のポートフォリオについての特徴を捉えることができた。株主のポートフォリオの分散度の異質性は大きい。すなわちポートフォリオが少数の株式に集中している株主が存在する一方、ポートフォリオがよく分散されている主体も存在している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、実証研究で扱う仮説を理論モデルを用いて提示すること、データの整理を行うことを当初の目的としていた。理論モデルにおいては、株主構成が株価の変動に対して影響を与え、それによって設備投資などの企業行動に影響を与えるような状況を想定していた。しかし、株主のリスク選好が報酬体系を通して経営者のインセンティブに働きかけるようなモデルを考えることできるので、プリンシパル・エージェントモデルを拡張する形で理論分析を行うことにした。結果として、企業のリスク・テイク行動と株主構成あるいは株主のポートフォリオ構成が報酬契約を通じて関連するモデルを提示することができた。この当初の計画とは異なるモデルであるが、平成30年度に続く実証研究において検証すべき仮説を提示することができたという点で、当初の目的は達成された。 データの整理については予定通りに行うことができた。企業の設備投資や、パフォーマンス指標としてROA等に必要なデータ、大株主データ、株価などのデータを取得し整理することを予定していた。特に日経NEEDS FinancialQuestから取得した大株主データについては、個人投資家を除く株主のポートフォリオを推計できるようにデータを構築することができた。 理論分析・データ整理ともに、当初の目的を達成し、平成30年度に行う分析に必要な準備を行うことができたため、「おおむね順調に進展している。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究計画は、実証分析を通して、株主のリスク選好が企業のリスク・テイク行動に影響を与えることを明らかにすることである。昨年度の理論分析から得られた予測を検証する。すなわち、「支配株主のポートフォリオの分散度が高いほど、経営者報酬のパフォーマンスに対する感応度が大きい」という仮説である。この仮説を検証するための方策として、以下のステップをふむ。 (1)有価証券報告書に記載されている、役員報酬のデータを収集する。有価証券報告書には、役員報酬の総額と役員数、2010年からは1億円以上の報酬を受け取る役員の報酬の詳細について記載されている。どのような数値を分析に用いるかが課題となるが、先行研究を参考に報酬の平均値か経営者に該当する一人の報酬を用いるかを検討する。 (2)先行研究にならって、経営者報酬の(対数)差分を被説明変数、企業のパフォーマンスを説明変数にして回帰分析を行う。このとき、株主のポートフォリオの分散度を表す変数と企業のパフォーマンスの交差項を説明変数として導入することで、経営者報酬の企業パフォーマンスに対する感応度が株主のポートフォリオ分散度に依存する程度を推定することができる。対立仮説は、この推定されたパラメータが正であることに対応する。このとき、内生性が存在する可能性を考慮して、推定結果の頑健性を確かめる。 前年度の理論分析の拡張として、株主のポートフォリオの分散度に異質性が存在する理由を考慮して、経営者報酬との関係を分析したいと考えている。不完全な情報が投資家のポートフォリオの低い分散度をもたらす理論モデルが提示されている。このとき経営者報酬に対してどのような影響を与えるかを分析する。
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