2017 Fiscal Year Annual Research Report
メタン発生・分解酵素に学ぶ炭素源有用物質変換を目指した新規生体金属触媒の創成
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17J00008
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
宮崎 雄大 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | メタン発生酵素 / メタン生成 / F430 / ニッケル / テトラデヒドロコリン / ミオグロビン |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、人工生体触媒による環境負荷軽減型の物質変換が注目されており、その実現には天然酵素の反応制御の仕組みの理解と再現が必要である。本研究では、補因子にニッケル錯体 (F430)を有し、メタン菌中においてメタン発生と分解を制御するメチル補酵素M還元酵素 (MCR)に注目し、その反応機構解明と温和な条件でのC1源効率変換を可能とする人工生体金属触媒の開発を目的としている。本年度は、ヘムタンパク質の構造と補因子置換能に着目し、天然補因子ヘムの除去と人工補因子の導入を行う「再構成法」を利用することで、モデル錯体とタンパク質骨格の複合化により、本酵素モデルとして初めてタンパク質を基盤とした機能モデルを設計・構築した。モデル錯体として、金属低原子価種の安定化が可能なモノアニオン性テトラピロール配位子を有するニッケルテトラデヒドロコリンを新規に設計・合成した。タンパク質には、単純な構造で、補因子を疎水性のポケットに結合可能なヘムタンパク質のミオグロビンを選択し、調製・精製した。ミオグロビンからヘムを除去したのち、還元剤との反応により調製した1価ニッケルテトラデヒドロコリンを添加し、機能モデルとして再構成ミオグロビンを調製した。複合体の同定には紫外可視吸収スペクトル、円偏光二色性スペクトルや電子スピン共鳴スペクトルを用いた。酵素反応再現のため、還元条件下のリン酸緩衝液中、室温にて再構成ミオグロビンにヨードメタンを添加したところ、触媒的メタン発生を達成し、本系が天然酵素の機能モデルとして作用することを示した。さらに、分光電気化学測定よりニッケル2価/1価に相当する酸化還元電位が機能モデル中ではモデル錯体のみの場合と比較して負にシフトすることを明らかにし、タンパク質骨格が活性中心の物性を変化させ、反応性制御に大きく関与していることを実証した。上記の研究成果は国内外の学会にて発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、メタン菌中においてメタン発生と分解を制御し、補因子にニッケル錯体 (F430)を有するメチル補酵素M還元酵素 (MCR)に注目し、反応機構解明と人工生体金属触媒の開発への応用を実施する。本年度は、ヘムタンパク質の構造と補因子置換能に着目し、天然補因子ヘムの除去と人工補因子の導入を行う「再構成法」を利用することで、本酵素モデルとして初めてタンパク質を基盤とした機能モデルを設計・構築し、反応性評価を重点的に実施した。モデル錯体としては、F430に類似し、金属低原子価種の安定化が期待されるモノアニオン性配位子としてテトラデヒドロコリン骨格を設計し、ニッケル錯体の合成を達成している。本モデル錯体は既存のモデル錯体よりも弱い還元剤を用いた還元が可能であり、電子スピン共鳴法によりニッケル1価種の生成を同定した。ヘムタンパク質のミオグロビンから天然補因子ヘムを除去したのち、調製した1価ニッケルテトラデヒドロコリンを添加することで機能モデルとしての再構成ミオグロビンを調製した。紫外可視吸収スペクトル、円偏光二色性スペクトルや電子スピン共鳴スペクトルを用いて複合体の形成を確認した。続いて、室温、還元条件下においてメチル化剤としてヨードメタンを再構成ミオグロビン水溶液とコントロールのモデル錯体水溶液に加え、メタン発生実験を実施したところ、モデル錯体のみではメタンの発生が観測されなかったのに対して再構成ミオグロビンを用いると触媒的なメタン発生が確認された。タンパク質骨格が酵素反応に重要な役割を果たすことを示唆する結果である。さらに、分光電気化学測定からはニッケル中心の酸化還元電位がタンパク質骨格の有無により変化することを確認しており、酵素反応において活性中心の反応性がタンパク質骨格により高度に制御されることを実証した。上記のように、研究計画に基づいておおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は本年度に実施した機能モデルの調製とその同定を展開し、異なる性質を有するモデル錯体とヘムタンパク質のタンパク質骨格を組み合わせることで、より天然の系に近く、反応の難度が高いスルフィド結合開裂に伴うメタン発生に挑戦する。モデル錯体としては、本年度に用いたニッケルテトラデヒドロコリンよりも還元された環構造を持ち、ニッケル1価種の高い反応性が予想されるニッケルジデヒドロコリンを検討する。タンパク質骨格としては、疎水的ポケットの活性中心近傍にメチオニン残基を有するシトクロムb562などの使用を検討する。さらに、本機能モデルにおけるタンパク質骨格は制御された第二配位圏として作用するため、生体金属触媒への応用を検討する。具体的には反応中間体として予想される有機金属種にカルボニル化合物や不飽和化合物などの外部基質を反応させ、タンパク質の不斉環境を利用した不斉C-C結合形成に挑戦する。本研究で得られる成果は、メタン発生・分解酵素の反応機構・作用機序解明、そしてC1源の効率的変換を目指した生体金属触媒構築に大きく貢献すると期待される。
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Research Products
(8 results)