2018 Fiscal Year Annual Research Report
世代を越えてアブラムシの光周性を制御する季節タイマーの研究
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17J00016
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松田 直樹 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 昆虫 / アブラムシ / 生理学 / 時間生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
エンドウヒゲナガアブラムシにおける卵生メスとオスの産出を、越冬世代(幹母)から複数世代にわたって抑制するしくみ(季節タイマー)について、以下の3つの研究を実施した。すべての実験において、エンドウヒゲナガアブラムシのApL系統を対象とした。 【季節タイマーの生態的意義】「季節タイマーは秋に産むべきオスや卵生メスを春に誤って産んでしまうのを防ぐ役割がある」という仮説を検証した。2018年4月中旬から札幌において、季節タイマーがオンの幹母と、単為生殖を繰り返して季節タイマーがオフになった胎生メスを、自然の温度と日長のもとで飼育した。その結果、タイマーオン・オフの虫はどちらも両性生殖型をまったく産まなかった。前年度の京都における実験の結果とあわせて、季節タイマーの生態的意義を再検討する必要が生じた。 【光周性への時計遺伝子の関与】2本鎖RNAの導入方法の見直しを行った。時計遺伝子periodおよびcycleの2本鎖RNAをショ糖溶液に混ぜて、2齢幼虫に摂食させたが、表現型に対する影響が見られず、遺伝子の発現量も明瞭に減少していなかった。この結果は本種に対してRNA干渉が有効でない可能性を含んでおり、時計遺伝子が光周性に関与するか否かの結論を下すことはできていない。 【季節タイマーに関連する遺伝子】季節タイマーのオンとオフによって発現量が変動する遺伝子を探索した。前年度に次世代シーケンサーで取得した配列情報を解析した結果、季節タイマーがオンの個体では日長依存的な遺伝子発現パターンの違いが見られなかった。また、季節タイマーがオンの個体とオフの個体の間でヒストンのアセチル化をはじめとしたエピジェネティックな修飾にかかわる遺伝子の発現量が有意に変動していた。これらの結果から、季節タイマーの分子機構に、日長依存的な転写調節を抑制するエピジェネティックな修飾が関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
京都における自然条件飼育に引き続き、札幌においても同様の飼育実験を完遂した。得られた結果をもとに生態的意義を再検討する必要が生じたが、最終年度の飼育実験と合わせて妥当性の高い結論を得られると確信している。 次世代シーケンサーで得られた配列情報の解析も一通り終了し、エピジェネティックな修飾の関与を示唆したことは大きい成果であった。 一方、時計遺伝子のRNAiは難航している。当初の目的であった、生殖型制御の分子機構に季節タイマーが及ぼす影響の解明のためには、トランスクリプトーム解析の結果を手がかりに異なる手法を追加する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
春の京都において自然の日長と温度のもとで飼育実験を行い、生態的意義を再検討する。準備に時間と労力を要する越冬卵も十分な数を得られたため、信頼性のある結果を導けると予想している。 トランスクリプトーム解析について統計手法を見直すとともに、リアルタイム定量PCRなど異なる手法で解析結果を補強する。また、これにより生殖型決定の分子機構において季節タイマーが及ぼす影響についても重要な知見が得られる。
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