2018 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J00034
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
谷口 順子 筑波大学, 生命環境系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 腸管神経系 / 一酸化窒素合成酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
ウニ胚の腸管神経系の解析を進める中でウニ胚の幽門近郊にsynaptotagminを発現する神経様細胞の存在が示唆されたことから、2018年度はその特徴についての解析を中心に進めてきた。幽門近郊の神経様細胞は胃腹側に1細胞、腸背側に約2細胞みられ、いずれも細胞系譜に基づく実験により内胚葉由来であることが示された。また、神経特異的マーカーとして報告される、Zfhx1、delta、soxCのmRNAの発現がそれぞれの神経様細胞で確認できたことから、それらは神経そのものであるという可能性がさらに強まった。さらに、ウニの幽門は脊椎動物で見られるのと同様に一酸化窒素によって開口し、ウニ胚幽門胃側の1神経様細胞は神経型一酸化窒素合成酵素(nNOS)を発現していることが確認された。nNOS機能を翻訳阻害により失わせると、胃の内容物が腸に移行しにくくなり、その結果、エサを与えていない幼生と同程度の成長段階のまま発生が停止した。nNOS阻害幼生では、おそらく栄養吸収が十分に行われていないものと考えられ、この症状はnNOSノックアウトマウスや、ヒトの一酸化窒素合成酵素の不全で見られる肥厚性幽門狭窄症と類似の症状と考えられた。 これらの結果から、神経堤細胞を持たないウニ幼生では、内胚葉由来の神経様細胞がnNOSを発現し、そこから生じる一酸化窒素により、幽門の開口を制御していることが強く示唆された。これにより、後口動物内の脊椎動物と棘皮動物の共通祖先では、一酸化窒素を幽門の開口に利用していたことが推測される。また、その制御に利用する神経細胞は、もともと内胚葉由来であり、脊椎動物が進化する過程で神経堤細胞にその役割が移動したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ウニ幼生に見られる腸管の神経様細胞の由来やその特徴の解明だけに留まらず、幽門開口の機能に脊椎動物と同じく一酸化窒素合成酵素が関与していることを発見し、非常にインパクトのある結果が得られた。また、本研究テーマとも関連性のある前端部神経外胚葉の形成を維持する因子の解析結果もまとまり、本年度は筆頭著者で2報論文報告するに至った。本申請テーマである中枢神経と腸管神経系の関連性についても現在、解析が順調に進行しており、当初の計画以上に多くの結果を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ウニ前端部神経外胚葉領域(脳相同領域)と腸管神経系の関連性をより明確にし、中枢神経の出現と腸管神経の進化についての議論を深めていく。前端部神経外胚葉で合成される神経伝達物質セロトニンが、腸管神経の形成、および機能にどのような影響を及ぼすのかの解析を進め、セロトニン伝達経路についてもさらに明らかとしていく計画である。研究計画ではセロトニンが胃腸の多くの細胞に取り込まれていることを想定していたが、これまでのところ受容体やセロトニントランスポーターなどの胃腸での発現は確認できておらず、ターゲットとする因子や、その検出方法のさらなる検討が必要となっている。自作抗体の手法や、タンパクおよびmRNAの最新の検出方法も取り入れながら、研究を推進していく。
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Research Products
(3 results)