2017 Fiscal Year Annual Research Report
ベンバ語およびその周辺言語におけるテンス・アスペクト体系についての比較研究
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17J00068
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
牧野 友香 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | バントゥ諸語 / 記述言語語学 / テンス・アスペクト / 近過去 / 完了 / Anterior / 属性叙述 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度は、ザンビア中部でベンバ語に次いで話者人口の多いランバ語について、過去やAnteriorを表す形式を中心に研究を行った。先行研究から、近い過去を表すとされている形式や‘Perfect’を表すとされている形式について、根拠が十分に示されていないと見受けられたため、それらの形式を中心にザンビアのコッパーベルト州ンドラにて現地調査を行った。調査によって明らかになったことは以下のとおりである。 文献から近い過去を表すと考えられた形式は3つあったが、そのうちの1つであるa-形式はAnteriorとするのが妥当であるとの結論を導いた。これは、a-形式がほかの2形式と違い動詞が表す動作と発話時現在に話者が抱えている状況に何らかの因果関係が示されていなければ用いることができないからである。さらに、achi-形式は90年代以降の研究では見られるがそれ以前の文献では見られない形式である。ただしベンバ語では古くから存在する形式であることが確認できたため、ベンバ語から借用した可能性がある。 Anteriorであるとしたa-形式のほかにもう1つ、ランバ語にはAnteriorを表す形式(li-形式)がある。これらは先行点と参照点との距離の長さが異なる。a-形式はその距離が短い場合に用いられるため、変化に重きが置かれた状況が表される。先行点と参照点との距離が長い場合に用いられるのがli-形式であり、先行点で起こった状態変化の完結などの情報がおざなりになり、単なる状態や時間的展開性を含意しない属性叙述が表される。これらの用法の拡張にはこの距離の長さが関わっている可能性がある。ランバ語にはもう1つ属性叙述を表す形式がある(ゼロ形式)が、ゼロ形式では共起できない動作動詞などの場合、li-形式によって属性が表されることになる。 日本アフリカ学会第54回学術大会、第154回日本言語学会にて成果物の発表も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度は、予定していたランバ語以外の3言語(ララ語、ビサ語、スワカ語)の調査ができなかった。しかしながら、ランバ語に集中してデータ収集、分析をしたことで、ランバ語のAnteriorを表すli-形式が属性叙述を表す機能も持っていることが分かった。このli-形式のliはCopulative Verbに由来すると考えられ、日本語で言うと「いる」に相当する表現である。日本語の完了「テイル」も、存在に関する表現「いる」が関わっており、さらにこの「テイル」には属性叙述の機能がある。また、同じくバントゥ諸語でザンビアの西部で話されているトテラ語でも、完了に相当する表現が属性を表しているとした報告がある。また、Anteriorを表すもうひとつの形式a-形式も、日本語のパーフェクト相と呼ばれる「シタ」と類似した点がある。ランバ語のAnteriorを表す形式に関して申請者が上げた成果は、バントゥ諸語間だけでなく、日本語との対照研究において何らかの貢献ができるものであると考えている。 また、次年度である30年度は、バントゥ諸語の研究者にとって大きな意味を持つ国際学会が3つ開催される年であり、申請者はそのうちの2つに採択されている。この2つの採択は、29年度に行った現地調査が実を結んだものと言って良いだろう。 以上の理由から、当初の予定より遅れはあるもののそれをカバーするだけの成果が上げられていると考えられるので、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり30年度は例年の国内学会2つに加え、国際学会も2つ控えている。また、この年度で博士論文の完成も目指している。引き続きランバ語のテンス・アスペクト体系についての調査・分析を続けるとともに、地域共通語のベンバ語とランバ語の二言語併用話者に対しても調査を行う。テンスの区切り方の違う2言語が1人の話者によってどのように使い分けられているのか明らかにすることを目指す。
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