2017 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症に高頻度で認めるPOGZ変異の患者iPS細胞と変異マウスによる分子病態研究
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17J00152
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松村 憲佑 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 自閉症スペクトラム障害 / de novo変異 / POGZ |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)は脳発達の異常が関与する神経発達障害である。しかし、発症の分子基盤は不明な点が多く、根本的な治療法が存在しない。自閉症の多くは孤発例であり、数多くのde novo突然変異が自閉症患者特異的に同定されているが、de novo変異が神経細胞の発達に与える影響を解析した例はなく、de novo変異と自閉症との関連性は不明である。自閉症関連遺伝子POGZは報告されているde novo変異が最も多い遺伝子の一つであり、POGZと自閉症との関連性が強く疑われるが、詳細なタンパク機能は不明である。そこで平成29年度は、de novo変異によるPOGZの機能異常が自閉症発症のリスクになる可能性を明らかにする目的で、脳発達におけるPOGZの機能解析、de novo変異がPOGZに与える影響の網羅的解析、およびde novo変異ノックインマウスを用いた個体レベルの解析を行った。 まず神経発達におけるPOGZの機能解析を行った結果、POGZは脳発達期における神経発生を正に制御することが明らかになった。そこで、健常者および自閉症患者由来のde novo変異が神経発生に与える影響を解析した。健常者由来のde novo変異は神経発生に影響を与えなったが、自閉症患者由来のde novo変異はPOGZの神経発生を制御する機能を低下させた。さらに、de novo変異ヘテロノックインマウスを用いて、自閉症患者由来のde novo変異がPOGZの機能に与える影響をマウス個体レベルで解析した。POGZヘテロ変異マウスは自閉症と関連していると考えられる行動異常を示した。本研究成果によって、POGZの機能低下による脳発達の遅れが自閉症発症のリスクになる可能性が示された。今後、POGZヘテロ変異マウスの行動異常を回復する方法を探索することで、自閉症の治療戦略の構築に貢献したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
特別研究員奨励費申請時の研究計画では、平成29年度は神経発生におけるPOGZの機能解析および自閉症患者由来のde novo変異が神経発生に与える影響の網羅的解析を行う予定であった。実際には、自閉症患者由来のde novo変異に加えて、健常者由来のde novo変異についても同様の検討を行うことで、健常者由来のde novo変異はPOGZの機能に影響を与えないが、自閉症患者由来のde novo変異はPOGZの神経発生を制御する機能を低下させることを明らかにすることができた。すなわち、自閉症患者由来のde novo変異と健常者由来のde novo変異のPOGZの機能への影響を比較することによって、POGZの機能低下による神経発生の遅れが自閉症発症のリスクになる可能性を示唆できた点で、本研究は予想以上に進展した。一方、POGZが神経発生を制御する分子メカニズムについては解明できていないため、平成30年度内に解明したいと考えている。 また、平成30年度に予定していたPOGZのde novo変異ヘテロノックインマウスの行動解析についても、平成29年度にPOGZヘテロ変異マウスが自閉症と関連する行動異常を示すことを明らかにすることができた。 以上の理由から、本研究は当初の計画以上に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討によってPOGZが脳発達期における神経発生を正に制御することを明らかにしたが、その分子メカニズムは不明である。POGZはクロマチンリモデリング機能を有することが示唆されているため、POGZの相互作用因子やPOGZによって発現調節される遺伝子を同定することによって、POGZが神経発生を制御するメカニズムを解明したい。 また現在、当研究室が開発した全脳イメージングシステムであるFASTを用いて、神経活動の最初期遺伝子Arcプロモーター制御下に蛍光タンパク質dVenusを発現するArc-dVenusマウスとPOGZヘテロ変異マウスを掛け合わせたマウスの全脳神経活動の解析を行い、ヘテロ変異マウスの自閉症様の行動異常の原因になり得る脳領域の同定を進めている。異常な神経活動を示す脳領域を同定することができた際には、その領域の神経活動を正常に戻すことで異常行動が回復するかを検討し、自閉症発症のリスクになり得る脳領域を同定したい。また、これまでの検討ではマウスを用いた実験のみを行ってきたが、ヘテロ変異マウスと同様のde novo変異を持つ自閉症患者由来の人工多能性幹細胞(以下、iPS細胞)を用いることで、患者の脳発達期における神経発生について解析する予定である。マウスおよび患者由来iPS細胞を用いた検討によって、POGZの機能異常が自閉症発症のリスクになる可能性を示唆することができた際には、ヘテロ変異マウスや患者iPS細胞由来の神経系細胞を用いて、自閉症治療薬の探索などを行い、自閉症の克服に貢献したいと考えている。
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