2018 Fiscal Year Annual Research Report
自閉症に高頻度で認めるPOGZ変異の患者iPS細胞と変異マウスによる分子病態研究
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17J00152
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松村 憲佑 大阪大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / de novo変異 / POGZ |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉スペクトラム症(以下、自閉症)は脳発達の異常が発症に関与すると考えられる神経発達障害である。発症の分子基盤は不明な点が多く、根本的な治療法が存在しない。近年、遺伝統計学的研究によってde novo突然変異が孤発性自閉症発症に大きく寄与する可能性が示されている。自閉症関連遺伝子POGZは、報告されているde novo変異の数が最も多い遺伝子であり、POGZと自閉症との関連性が強く疑われるが、脳発達における機能およびde novo変異がPOGZの機能に与える影響は不明であり、POGZの機能異常の自閉症発症への寄与は未解明である。そこで、de novo変異によるPOGZの機能異常が自閉症発症のリスクになる可能性の解明を目的として検討を行っている。 平成29年度において、自閉症患者由来のde novo POGZ変異によって大脳皮質神経細胞の発生が低下する可能性、およびde novo変異ヘテロノックインマウスは自閉症の中核症状に関連する社会性行動の低下および繰り返し行動の増加を示すことを見出した。 そこで平成30年度では、ヘテロ変異マウスの大脳皮質神経細胞の発生を解析したところ、胎生期において大脳皮質の興奮性神経細胞の発生が遅れていること、および成体期において大脳皮質の興奮性神経細胞の配置が乱れていることが明らかになった。ヘテロ変異マウスの神経活動を、神経活動の最初期遺伝子Arcを発現する神経細胞の分布および電気生理学的手法によって解析した結果、ヘテロ変異マウスの大脳皮質は過活性化しやすいことが明らかになった。そこで、AMPA受容体阻害薬を投与して興奮性シグナルを抑制した結果、ヘテロ変異マウスの社会性の低下が回復した。これらの結果から、胎生期の大脳皮質神経発生の遅れは成体期の大脳皮質の異常な活性化に繋がること、およびAMPA受容体阻害薬が新たな自閉症治療薬になる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
特別研究員奨励費申請時の研究計画では平成31年度に予定していた、de novo変異ヘテロノックインマウスの行動異常のメカニズム解明を目的とした神経活動や神経細胞の形態、大脳皮質の層構造の解析を平成30年度に実施することができた。この解析から、胎生期の大脳皮質神経発生の遅れは成体期の大脳皮質の異常な活性化に繋がること、およびAMPA受容体阻害薬が新たな自閉症治療薬になる可能性を示すことができた点で、本研究は予想以上に進展した。また、出生前の胎生期から大脳皮質の発達に異常が起こっているにもかかわらず、出生後の成体期において社会性行動の低下を薬理学的に回復できる可能性を示すことができた点で、今回の研究成果は自閉症研究に重要な知見を与えるものであると評価している。 一方、POGZが胎生期の神経幹細胞の神経分化を制御する分子メカニズムの解明を目指した検討を取り組んできたが、未だそのメカニズムの解明には至っていない。平成31年度は本検討に精力的に取り組み、少しでも神経幹細胞の神経分化におけるPOGZの機能を明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討によってPOGZが脳発達期における神経発生を正に制御することを明らかにしたが、その分子メカニズムは不明である。POGZはヒストンH3の9番目のリジンのトリメチル化サイトに結合し、標的遺伝子の発現を抑制するという報告がある。そこで、POGZのde novo変異ヘテロノックインマウス由来の神経幹細胞のRNAシーケンスによって、神経幹細胞の神経分化に関与する遺伝子群の発現パターンを解析し、POGZが発現抑制する遺伝子を予測する予定である。また、神経幹細胞におけるPOGZのChIPを行い、実際に標的遺伝子のプロモーターなどにPOGZが結合するのかについて明らかにすることで、POGZが神経分化を調節する分子メカニズムを解明したい。 また、平成29年度において、POGZにde novo変異を持つ自閉症患者iPS細胞由来の神経幹細胞の神経分化能が低下していることを見出したが、de novo変異によるPOGZの機能低下が患者由来神経幹細胞の神経分化能の低下に寄与している可能性については未解明である。そこで、POGZをノックダウンした健常者iPS細胞由来神経幹細胞の神経分化能を解析することによって、ヒトの神経幹細胞においてもPOGZが神経分化を制御している可能性について解明する予定である。
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Research Products
(2 results)