2017 Fiscal Year Annual Research Report
インド不二一元論学派における主宰神論を視座とした有神論教学形成過程の解明
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17J00156
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
眞鍋 智裕 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アドヴァイタ的ヴィユーハ説 / アートマンの四状態説 / アドヴァイタ的クリシュナ神観 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は九州大学で片岡啓准教授の指導の下、マドゥスーダナ・サラスヴァティー(以下マドゥスーダナと表記)の『パラマハンサ・プリヤー』の翻訳作業を行った。この『パラマハンサ・プリヤー』の翻訳作業は2017年度中に完了している。また、『パラマハンサ・プリヤー』の他に、マドゥスーダナの『バガヴァッド・ギーター註』や『不二の立証』のうち、当研究課題の中心であるマドゥスーダナの主宰神論解明の上で重要な箇所の翻訳作業も行った。以上の諸文献の翻訳作業の完了により、2017年度の研究が進展したことはもちろんのこと、来年度以降の研究の道筋がより明確になった、という点でも成果が見られた。 また、斉藤茜特別研究員PD(日本学術振興会)の協力の下、サルヴァジュニャートマンの『五章篇』の翻訳作業を行った。この『五章篇』はマドゥスーダナを始めとする後期不二一元論学派の聖典解釈にとっての基礎理論が説かれた文献であり、後期不二一元論学派の教学を読み解く上で重要なものである。 以上の翻訳作業のほかに、以下の国内外の活動を行った。2017年9月には日本印度学仏教学会学術大会において、マドゥスーダナの教学において聖典『バーガヴァタ・プラーナ』がどのような意義を持っているのか、ということに関して発表を行った。また同月、ネパール・カトマンドゥに赴き、国立考古学局にてマドゥスーダナの文献を中心にサンスクリット語写本の調査を行った。11月には、早稲田大学の大久保良峻教授がイタリアのナポリ東洋大学で開催した国際シンポジウムに参加し、マドゥスーダナのヴィシュヌ神論に関する発表を行った。また2018年3月には、タイのマヒドン大学で開催された国際サンスクリット合宿に参加した。 以上のように、2017年度は主にマドゥスーダナの文献の翻訳作業という基礎作業を大いに進展させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マドゥスーダナの『パラマハンサ・プリヤー』は、聖典『バーガヴァタ・プラーナ』の冒頭三詩節に対する註釈であるが、申請時点では冒頭第一詩節に対する註釈部分しか入手できていなかった。しかし、『バーガヴァタ・プラーナ』の第二、第三詩節に対する『パラマハンサ・プリヤー』が新たに写本から校訂されて公刊されたため、第二、第三詩節に対する註釈も解読が可能になった。さらに、その刊本とは別の、入手困難であった『パラマハンサ・プリヤー』全篇の公刊本を入手することができたため、『パラマハンサ・プリヤー』全篇を諸版を比較して批判的に解読可能な環境が整った。 以上のような事情により、マドゥスーダナの『バーガヴァタ・プラーナ』解釈を当初の予想より詳細に知ることができることとなった。またそのことによって、マドゥスーダナのヴィシュヌ神学もより詳細に解明可能になるとともに、マドゥスーダナの他の神学的著作における分析困難な著述箇所も、新出箇所との比較に依り分析が容易になった。 さらに、申請時の計画通りに研究も進んでいるため、当初の計画以上に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、以下の二つの視点から研究を進める予定である。 先ずは、研究計画通り、マドゥスーダナの信愛論の観点からマドゥスーダナの主宰神観を解明する。『パラマハンサ・プリヤー』において、最高者に対して熟慮、念想、信愛という三つの瞑想が説かれている。この三つの瞑想方法は、その対象の違いに応じて立てられているため、それぞれの瞑想の違いを解明することで、それらの対象であるブラフマン、ヴァースデーヴァ神、クリシュナ神の違いもおのずと解明されることが予期される。そこで、マドゥスーダナの『信愛の霊薬』を解読することによって、信愛と熟慮の違い、またそれの違いに対応して、クリシュナ神とブラフマンの違いを解明する。 また、第二の視点は以下のようなものである。不二一元論学派において、ブラフマン、主宰神、我々生類である個我の関係を示す教義に、顕現説、映像説、限定説、知覚創出説の四つの理論が存在する。マドゥスーダナは、その『定説の滴』において知覚創出説を定説としているが、『バガヴァッド・ギーター註』において主宰神を論じる際には映像説に基づいているような記述をしている。そこでマドゥスーダナは映像説と知覚創出説とのどちらを定説と考えているのか、という疑問が生じる。その疑問の解決のために、マドゥスーダナの『不二の立証』において知覚創出説が論じられている「知覚創出節」と「一我論節」を解読する。マドゥスーダナが映像説によっているのか、あるいは知覚創出説によっているのかを解明することは、マドゥスーダナが、主宰神とはどのようなものか、個我とはどのようなものか、また世界はどのようにして作られているのか、という神学的問題をどのように考えていたかを明らかにすることであり、本研究課題にとっても重要である。
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Research Products
(6 results)