2018 Fiscal Year Annual Research Report
インド不二一元論学派における主宰神論を視座とした有神論教学形成過程の解明
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17J00156
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
眞鍋 智裕 九州大学, 人文科学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アドヴァイタ学派のバクティ論 / 後期アドヴァイタ学派の救済論 / アドヴァイタ学派のヨーガ論 / 後期アドヴァイタ学派のプラーナ論 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、不二一元論学派の学匠マドゥスーダナ・サラスヴァティー(ca. 16th、以後マドゥスーダナと表記)の主宰神論の解明という本研究課題にあたり、最高の真理を対象とする実践論の解明が必須であると考え、彼の、最高神への絶対的帰依である信愛(Bhakti)論と、信愛論の前段階の実践であるヨーガ(Yoga)論の解明に従事した。 信愛論に関して、マドゥスーダナの信愛論の著作『信愛の霊薬』第一章と、その特徴を明確にするため、彼の後継者の一人サダーナンダ・カーシュミーラカ(ca. 18th、以後サダーナンダと表記)の著作『本質の顕示』第三章信愛節の翻訳作業を行った。その成果と、前年度に完遂していたマドゥスーダナの『聖バーガヴァタ冒頭三偈註』(以後『バーガヴァタ註』と表記)の翻訳の成果を併せ、マドゥスーダナの信愛論とサダーナンダの信愛論のそれぞれの特徴と、マドゥスーダナがサダーナンダに与えた影響、また両者の相違に関して考察を加えた。そしてこの成果を、学術発表や学術論文の形で順次発表した。 またマドゥスーダナのヨーガ論に関して、彼の『バガヴァッド・ギーター註』(以後『ギーター註』と表記)第六ヨーガ章の翻訳作業を行った。この『ギーター註』の前半箇所の拙訳をもとに、2月末にタイ・マヒドン大学で開催されたRatnakara Readings 2019第一部において、張本研吾同大学准教授と共同で講読会を主催した。この講読会において、マドゥスーダナのヨーガ論は、ボージャ王(ca. 11th)や不二一元論学匠ヴィディヤーラニヤ(ca. 13th)の影響を受けていることが判明した。 また、11月にはインド・ポンディシェリのフランス極東学院において、不二一元論学匠サルヴァジュニャートマンの著作『認識手段の定義的特徴』の講読会に参加し、初期不二一元論学派の認識論に関する理解を深めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
マドゥスーダナの『信愛の霊薬』の翻訳作業の進展と、その所説をサダーナンダの信愛論と比較考察することによって、マドゥスーダナの信愛論が伝統的な不二一元論教学の枠内に必ずしも収まりきらないものであることが判明してきた。また、『信愛の霊薬』翻訳の成果を『バーガヴァタ註』の記述とを併せて考察することで、その伝統的不二一元論教学の枠に収まりきらない部分は、『バーガヴァタ註』の註釈対象である『バーガヴァタ・プラーナ』そのものに由来することが明瞭になった。またさらに、マドゥスーダナの信愛論とサダーナンダの信愛論の違いは、マドゥスーダナの信愛論をサダーナンダが伝統的不二一元論教学に最接近させようと試みたことから生まれたものと考えられ、後期不二一元論教学内での信愛論の変化が浮かび上がってきた。この点は当初の期待以上の成果である。 また、マドゥスーダナのヨーガ論の解読により、マドゥスーダナの「信愛」の定義と、瞑想の一種であり、ブラフマンの知の原因である「熟慮」の定義とが非常に似通ったものであることも判明した。さらに、熟慮の対象は、属性を持つものと属性を持たないものの両者であることも明らかとなった。これらのことは、信愛の対象であり、属性を持つ最高者である主宰神と、熟慮の対象であり、属性を持たない最高者であるブラフマンとの関係を理解する上で重要な糸口となり、マドゥスーダナの主宰神論解明へ向けての大きな足がかりとなる。 さらには、マドゥスーダナのヨーガ論の体系がヴィディヤーラニヤの著作『生前解脱の考察』に基づいていることが明らかとなったため、『生前解脱の考察』に対する先行研究も本課題遂行のための資料として利用可能であることが判明した。
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Strategy for Future Research Activity |
『信愛の霊薬』と『ギーター註』第六章の翻訳作業はまだ完了してないため、引き続き翻訳作業を行う。『ギーター註』第六章には、ヨーガと言われる熟慮と真実の知、即ちブラフマンの知との関係が説かれており、ヨーガとブラフマンの知、またヨーガと信愛の関係を明確にするためにも、該当箇所の分析を重点的に解読を行う。同様に、信愛とヨーガ、また信愛とブラフマンの知との関係を明確にするためにも、『ギーター註』第六章との平行箇所に注意を向けながら『信愛の霊薬』の解読も進めていく。 以上のように、マドゥスーダナにとってのヨーガ、信愛、ブラフマンの知との関係を解明しつつ、それらの対象がどのようなものであるのか、ということにも考察を加えることによって、マドゥスーダナの教学における属性を持たない最高者であるブラフマンと属性を持つ最高者である主宰神との関係を明らかにしていく。 また、上述の作業を行う上で、ヴィディヤーラニヤの『生前解脱の考察』における関連箇所や、サダーナンダの『本質の顕示』における関連箇所も参照し、比較考察することによって、不二一元論教学におけるマドゥスーダナのブラフマン観、主宰神観の特徴を浮かび上がらせる。
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Research Products
(10 results)