2017 Fiscal Year Annual Research Report
脊髄損傷後のリハビリテーションが皮質脊髄路の再編を促すメカニズムの解明
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17J00281
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中西 徹 大阪大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 脊髄損傷 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は脊髄損傷後のリハビリテーションが皮質脊髄路の再編を促すメカニズムを明らかにすることである。先行研究により、リハビリテーションが皮質脊髄路の再編を促し運動機能の回復に寄与することが示唆されてきたが、そのメカニズムについては不明な点が多い。リハビリテーションによる運動機能の回復メカニズムを明らかにすることは、科学的根拠に基づく有効なリハビリテーション手法の確立を目指す上で重要な課題である。そこで本研究では、脊髄損傷後に皮質脊髄路の軸索側枝に生じる刈り込みに着目し、リハビリテーションが側枝の刈り込みを促すのかを検証した。 その結果、これまでに①脊髄損傷後のリハビリテーションが側枝の刈り込みを促し運動機能の回復を促進すること、②側枝の刈り込みにNeuropilin-1 (Nrp1) が必要であること、③側枝の標的であるPropriospinal neuron (PN) で、Nrp1のリガンドであるSemaphorin3A (Sema3A) が発現すること、を明らかにしてきた。 今年度は、①脊髄損傷後の側枝の刈り込みは運動機能の回復に寄与するのか、②リハビリテーションはNrp1とSema3Aの発現を亢進させるのか、について検証した。アデノ随伴ウイルスベクターを用いてNrp1を運動野特異的にノックアウトしたところ、脊髄損傷後の運動機能回復が有意に阻害された。この結果から、Nrp1を介した側枝の刈り込みは脊髄損傷後の運動機能回復に必要であることが示唆された。また、運動野とPNにおけるNrp1とSema3Aの発現量は、リハビリテーションによって変化しなかった。この結果から、リハビリテーションによって促される側枝の刈り込みは、脊髄損傷後に自然に起こる側枝の刈り込みとは異なる分子メカニズムを有していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの先行研究によって、脊髄損傷後の運動機能回復には、皮質脊髄路からの側枝形成が重要であることが示されてきた。本研究では、側枝形成後に起こる側枝の刈り込みに着目し、側枝の刈り込みが脊髄損傷後の運動機能回復に必要であることを明らかにした。この結果から、脊髄損傷後の運動機能回復には、新たな神経回路の形成を促すだけでなく、それを精密化していくことが重要であることが示唆された。また、この結果によって、研究開始当初より目指していた、脊髄損傷後の新たな治療戦略を提示することができたと考える。 さらに、今年度の研究において、リハビリテーションによって促される側枝の刈り込みは、脊髄損傷後に自然に起こる側枝の刈り込みとは異なる分子メカニズムを有していることを示唆する結果を得た。この結果は研究開始当初に予想していたものとは異なり、リハビリテーションが側枝の刈り込みを促す分子メカニズムを新たに探索していく必要がある。したがって、本研究課題においては、脊髄損傷後に自然に起こる側枝の刈り込みに着目し、今後の詳細な検証を行っていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Nrp1の発現抑制によって皮質脊髄路からの側枝形成が促進されるのかを検証する。具体的には、側枝数がピークを迎える脊髄損傷後10日目において、Nrp1ノックダウン群とコントロール群での側枝数を比較し、Nrp1の発現抑制が側枝形成を促すのかを評価する。これによって、Nrp1が側枝の刈り込みにのみ寄与していることを明らかにする。 また、皮質脊髄路からの側枝が、その標的であるPNとシナプスを形成しているのかを経時的・定量的に評価する。具体的には、大脳皮質運動野に順行性トレーサーを注入し側枝を標識するとともに、脊髄内に逆行性トレーサーを注入しPNを標識することでシナプスを可視化する。
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