2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J00393
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
白石 直人 慶應義塾大学, 理工学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 熱機関 / 熱効率 / 仕事率 / トレードオフ不等式 / リーブ・ロビンソン限界 / 不確定性関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画1年目に予定していた、マルコフ過程に従う熱機関のパワーと効率のトレードオフ不等式については、当初予想していた通り、エントロピー生成率と熱流の不等式を導出することが出来、それを利用する形でトレードオフ不等式の導出に成功した。特に重要なコロラリーとして、長らく未解決問題であった「有限パワーかつカルノー効率という熱機関は存在するか」という問題を否定的な形で解決した。また不等式の物理的意味や他の類似する結果との関係性についても結果を得られており、この結果は現在まとめているところである。 さらに、研究計画2年目に予定していた、非マルコフ過程に従う熱機関のスピードと効率の関係についても、リーブ・ロビンソン限界という、数理物理などで用いられている定理を応用することで、その評価を行うことに成功した。この場合もやはり熱機関のスピードと効率の間にはトレードオフ関係が存在し、特にカルノー効率においてはスピードを無限に遅くしなければならないという、マルコフ過程の場合と同様の結果を得ることが出来た。以上より、マルコフ、非マルコフどちらの場合に対しても、熱機関にはパワーと効率の間に相補的な関係があるという結果を確立させることが出来た。 研究計画3年目に予定していた、熱機関の操作者のゆらぎの影響についても、すでに一定の成果を得ている。量子系の熱機関を「時間依存ハミルトニアンで与えられるユニタリ過程」で時間発展させようとすると、不可避的に操作者のエネルギーゆらぎが大きくなければいけない、という結果を得ることに報告者は成功した。これはトレードオフ不等式の形で表すことが出来、「ユニタリ過程への近似精度」と「操作者のエネルギーゆらぎ」との間に不確定性関係のような形の不等式が成り立つことが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、1年目にはマルコフ過程に従う熱機関に対して効率とパワーのトレードオフ関係を導出するのが目標であった。本年の研究成果は、当初の予定を大きく上回り、1年目の目標のみならず、2年目の目標であった、非マルコフ過程に従う熱機関に対する効率とスピードのトレードオフ関係の導出にも成功した。さらに、3年目の目標であった、熱機関の操作者におけるゆらぎの影響についても、量子熱機関に対する不確定性関係タイプの不等式として、十分な進展を行っている。 以上を踏まえると、本年の研究成果は当初の予定以上の進展を見せていると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画は当初の予定以上に順調な進展を見せているため、研究計画2年目には、3年目に予定していた内容に加え、研究計画を超えて得られた結果をさらに発展させていくことを考えている。特に、(1)量子速度限界への応用、(2)熱力学の基礎的側面の深化、の二つを考えている。 (1)「量子速度限界」は、孤立させた量子系において状態変化を行う際のスピードの限界を与える不等式であり、近年古典系に対する拡張が活発に研究されている。これは本研究計画で行っているパワーと効率のトレードオフ不等式と非常に近いものだと思われるので、本研究で得られている成果を量子速度限界の古典化へと応用することを計画している。 (2)熱機関のパワーと効率の間の不等式の導出においては、熱力学の成立そのものは仮定していた。しかし、そもそもミクロな力学からいかにしてマクロな法則である熱力学が現れるのかは非自明であり、また非常に難しい問題である。熱力学をミクロから基礎づけることは、熱力学を拡張する本研究計画に対してより深い理解と視座を与えるものとなりうるため、この方向への研究も併せて進めていくつもりである。
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