2017 Fiscal Year Annual Research Report
パルサータイミング観測によるアクシオン暗黒物質の検出理論の構築と重力理論の検証
Project/Area Number |
17J00568
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
青木 新 神戸大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | アクシオン / 暗黒物質 / 修正重力理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主要な研究実績は2つある.これらを順に報告する.
(a)「f(R)理論」と呼ばれるタイプの修正重力理論の枠組みでアクシオン暗黒物質の振舞いについて調べ,f(R)理論に属する一般的なモデルで,アクシオン暗黒物質が重力ポテンシャルの共鳴増幅を引き起こすことを明らかにした.この研究は,自身が先行研究で調べた特定のf(R)モデルの結果を,一般的なf(R)モデルの場合に拡張したものであり,これにより3つの重要な結果が得られた.(1)f(R)理論に共形変換と呼ばれる操作を施して「スカラー・テンソル理論」というタイプの修正重力理論の形に書き直すことで,共鳴現象の物理的な意味が明確な形で見えるようになった.(2)共鳴現象が起こり,かつ,修正重力理論に対する観測からの制限を満たすモデルを具体的に構成した.先行研究で調べた特定のf(R)モデルは,共鳴現象を起こすような状況下では,既にある観測からの制限を満たすことができない非現実的なものであった.(3)先行研究で明らかになっていた共鳴点以外にも,数多くの共鳴点が存在することを示した.(1)と(2)は研究計画段階で期待していた結果であり,(3)は想定以上の結果である.3つ目の結果が最も重要であり,新たに発見した共鳴点における重力ポテンシャルの共鳴増幅を,既存の検出器で観測できる可能性を見出した.
(b)銀河間磁場中でアクシオンと光子とが互いに転換する現象について,銀河間磁場の配位が転換現象にどの程度影響するのかを定量的に調べた.この結果,これまで想定されていた以上に銀河間磁場の配位が転換現象に大きな影響を与えることが判明した.この研究はアクシオンと光子との電磁相互作用に着目するもので,重力相互作用に着目した本研究課題の実施計画には無いものであるが,アクシオンという未知の物質の探索において相補的な役割を担うものであり,重要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度に行う予定であった研究内容は,「パルサータイミング観測」を用いてアクシオン暗黒物質を検出するための理論を構築するというものであった.ところが,計画立案後の自身の研究により,レーザー干渉計型重力波検出器などの,「パルサータイミング観測」以外の手法もアクシオン暗黒物質探索に応用できることが判明した.そこで本年度は,パルサータイミング観測に限定した検出理論を構築するよりも,アクシオン暗黒物質と修正重力理論の関係を調べるという,二年目に行う予定であった研究を先に進める方が有益であると判断し,研究計画を変更した.
研究計画は,アクシオン暗黒物質が重力ポテンシャルに与える影響を,様々な修正重力理論の枠組みで調べることであった.「研究実績の概要」で述べたように,「f(R)理論」と呼ばれるタイプの修正重力理論を,共形変換という操作によって「スカラー・テンソル理論」というタイプの理論に書き換えることで,アクシオン暗黒物質が重力ポテンシャルに与える影響の物理的な意味が明確になった.多くの修正重力理論は,少なくとも何らかの極限で「スカラー・テンソル理論」により記述することができる.したがって,当初の計画通り,一般的な修正重力理論に対しても,特定の状況下で共鳴現象が起きることを示したことになる.さらに,あらかじめ知っていた共鳴点以外にも数多くの共鳴点が存在することを明らかにしたことは,当初期待していた以上の進展である.
二年目に行う予定であった研究計画を一年目である本年度に行った点は想定外であったが,二年目に予定していた研究を計画通り進めることができたという点に,数多くの共鳴点の存在を明らかにするという,期待以上の結果を得ることができた点を加味し,本研究は当初の計画以上に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画立案後の自身の研究の進捗状況から,二年目に行う予定であった研究を研究遂行一年目の本年度に進めた.したがって,今後は一年目に行う予定であった研究計画を進めることとする.研究計画は,「パルサータイミング観測」を用いたアクシオン暗黒物質検出理論の構築であるが,前述の通り「パルサータイミング観測」以外の手法もアクシオン暗黒物質探索に応用可能であることが判明した.そこで今後は,パルサータイミング観測を用いた検出理論の構築に加え,アクシオン暗黒物質の探索に応用可能な検出手法の調査も行う.
「パルサータイミング観測」を用いたアクシオン暗黒物質の検出理論の構築という当初の研究課題は,同じ研究室に所属する特別研究員の研究課題と重なる部分が大きく,協力して研究に当たっている.現在までにNANOGravというパルサータイミング観測チームの提供するデータ解析用のプログラムを,アクシオン暗黒物質の検出用のものに書き換えることに成功している.現時点ではアクシオン暗黒物質の分布の情報を含めることはできていないが,研究期間内に実現可能であると考えている.期間内に,NANOGravが公開している11年間のパルサータイミング観測データの解析結果が出る予定である.この解析により,特定の質量のアクシオン暗黒物質の信号の有意性を判定でき,アクシオンが検出されない場合には,アクシオンの存在量についての制限が得られる.
「パルサータイミング観測」以外にアクシオン暗黒物質の探索に応用可能な検出手法として,「ドップラー追跡」や「ねじれ型重力波検出器」などに見当を付けている.これらの手法に対してアクシオン暗黒物質による信号を評価し,可能であれば,実際にアクシオン暗黒物質を探索するための検出理論を構築する.
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Research Products
(5 results)