2017 Fiscal Year Annual Research Report
沖ノ島、壱岐島、対馬出土古代ガラスの化学組成から日本の古代ガラスの流通を考察する
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17J00655
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
村串 まどか 東京理科大学, 総合化学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 古代ガラス / 壱岐 / 対馬 / 蛍光X線分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の根幹は日本―大陸間の古代ガラス流通について考察すべく,朝鮮半島と北部九州の間に位置する壱岐,対馬の古代ガラスの化学組成分析を行うことである.このうち,壱岐の古代ガラスはすでに現地での化学組成分析を行っており,平成29年度は同様の方法で対馬の古代ガラスの分析調査を行うことが課題であった.対馬での調査では,弥生時代の遺跡から出土したガラス玉と古墳時代の副葬品のガラス玉を分析し,古代の日本でよく見られるカリガラス(K2O-SiO2),ソーダ石灰ガラス(Na2O-CaO-SiO2),アルミナソーダ石灰ガラス(Na2O-Al2O3-CaO-SiO2)が伝わっていたことがわかった.さらに弥生時代の資料(かがり松鼻遺跡出土資料)はすべてカリガラスであり,古墳時代の資料(コフノサエ遺跡出土資料)はソーダ石灰ガラスもしくはアルミナソーダ石灰ガラスであることもわかった.このことから出土傾向の時代的変遷も日本国内の研究成果と対応していることが明らかになった.得られた成果として報告者が最も注目していることは,無色透明のカリガラスの存在を明らかにしたことである.報告者が把握している限り,日本や海外で報告されているカリガラスは,まれに黄色や赤褐色も存在するが紺色や淡青色のものがほとんどである.本資料のように無色透明のカリガラスは希少な例と考えられる.以上挙げたように平成29年度中に対馬の調査を実現することができ,多数の成果を得ることができた.また,壱岐の調査成果は平成29年度の日本文化財科学会第34回大会にて口頭発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は本研究の対象地域である対馬の調査を実現することができた.対馬の調査では多数の成果が得られ,本研究課題に対して重要な調査となった.年度末に行った調査であるため,本格的なデータの解析は次年度進めることになる.一方で,すでに調査を行っている壱岐の古代ガラスの分析データは日本文化財科学会第34回大会にて口頭で発表し,内容について高い評価を得た.解析が終了し次第,壱岐のデータと合わせて本研究課題をまとめていきたい. 本研究では壱岐や対馬の古代ガラスを対象に流通を考察することを目的としているため,他地域の古代ガラスデータと比較することで研究を進めていく.自身の研究課題である壱岐や対馬以外にも,平成29年度では国内外の多数の調査に参加し,比較データとして豊富なデータを得ることができた.報告者が所属する研究グループでは,数年にわたって国内外の古代ガラスのデータを蓄積してきた.国外では,ガラスが伝来する過程で海や陸のシルクロードを辿ってきたとされている東南アジアや中央アジアで出土したガラスの調査を行ってきた.特に中央アジアは調査回数が少なかったことから,平成29年度ではロシア・モスクワにて中央アジアで出土したガラスを分析する調査を実現した.これにより,中央アジアの分析データを拡充することができた.国内では,本研究対象地域に比較的近い愛媛県今治市で出土した古代ガラスの分析調査にかかわり,多数のデータを得ることができた.平成29年度は自身の研究課題に直接かかわる地域(対馬)の調査だけでなく,比較資料として間接的に関わってくる国内外の古代ガラスのデータを拡充することができ,おおむね順調に進めることができたと評価している.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は研究課題を追求すべく,データの蓄積に力をいれた.また得られたデータに対し学会発表を重ねて,その都度研究をまとめる作業に努めた.今後は蓄積したデータの解析,解釈,最終的な議論が求められる.まず対馬の調査は年度末に差し掛かってしまったため本報告書作成中はまだ解析中であり,これを完了させる.データ解析が終了し次第,壱岐の調査結果と合わせて本研究課題のまとめを進める.この作業は次年度(平成30年度)の前半には終えられるように計画的に進めたい.後半には壱岐と対馬の古代ガラスのデータを合わせて考察し,本研究課題をまとめていく.壱岐の古代ガラスの研究成果はすでに日本文化財科学会第34回大会で報告済みであるので,対馬の成果もできれば考古学・文化財研究の関係者が集まる同学会で発表したいと考えている.さらに本研究課題の成果は最終的に学術論文にまとめることも検討している.今後は以上のように学会発表や学術雑誌への投稿を念頭に,研究成果をまとめる作業に注力していく.
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Research Products
(9 results)