2018 Fiscal Year Annual Research Report
銅酸化物高温超伝導体における不純物が反強磁性、超伝導相に及ぼす効果の研究
Project/Area Number |
17J00670
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 諒 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | 強相関電子系 / 高温超伝導 / 不純物効果 / モット転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
銅酸化物高温超伝導体の中でも不純物が銅酸化物に及ぼす影響を調べた研究実績状況は以下の通りである。この研究課題を始めて二年目でハバード模型に不純物を含んだ形で計算する研究に主に取り組んだ。特にd波超伝導状態特化の波動関数を用いることで超伝導がどのように不純物の影響を受けるかを調べた。また昨年まで計算してきた不純物を含むハバード模型に対して反強磁性状態を対象とした波動関数を用いた計算結果を参照にし、さらには前々年度までに計算した不純物のない状態も参考にしながら計算を進めた。計算に使った手法は変分モンテカルロ法で、特に現れる相の中でも主要な相の一つであるd超伝導相を単体で扱って分析をある程度容易にした。不純物効果を含んで計算した理由は現実の(実験からの)銅酸化物から得られるキャリアドーピング対温度による相図が理論計算から得られるものに比べて反強磁性状態がキャリアドーピング軸に沿って即座に減衰する不一致の原因を解消するところから来ていたが、前年度の反強磁性の単体の波動関数で計算している範囲内ではこの減衰を見ることはできなかった。また今年度のd波超伝導の単体の波動関数で計算している限りでは少量の減衰がある程度の結果になった。この相図の不一致の解消以外にも不純物効果と強電子相関効果によって引き起こされるモット転移を調べた。前年度はこれを波動関数の制約により反強磁性金属-モット絶縁体転移での関係で調べたが、今年度はd超伝導の波動関数で行ったのでd波超伝導-モット絶縁体転移での関係を見ることなった。d波超伝導-モット絶縁体転移は反強磁性金属-モット絶縁体転移と比べて、不純物効果があまり効かない結果だった。これはハーフフィリングにおいて磁性によりモット転移の前に絶縁体化が進むのと同様の理由があると考えられる。これらの結果は日本物理学会と国際会議での発表やそれに伴う論文でまとめ、公表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度までで最初に仮定すべき最もシンプルなオンサイト不純物ポテンシャルでの計算と分析は三つの相(反強磁性相、常磁性相、d波超伝導相)で行った。現実的な不純物ポテンシャル強のパラメーター領域外まで含めて幅広く計算しており、上述したようにモット転移との関連も十分議論できるところまで調べた。不純物方面での銅酸化物高温超伝導体の物性解明にある程度貢献している結果になったと考えられる。しかしながら余力があれば計算する予定であったもの関してはそれほど行えていなかったので研究達成度としては「概ね達成」という状況を選択した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在までで進んだ内容は反強磁性、常磁性、d波超伝導相などの主要な相をそれぞれ単独で扱ったものなので、これらの波動関数で計算して得られた結果を比較する。変分モンテカルロ法では波動関数で相を選択することでその相が出るかでないかのシンプルな状態で調べることができ、単独の相の性質を抜きだすのにすぐれている。上記の波動関数を使い、基本的な物理量を計算するところまでは済んでいるのでトータルエネルギー、電荷相関関数、スピン相関関数、超伝導相関関数の計算結果を使い、分析する。各相の分析が終了次第、波動関数を相を複数同時に扱える混合状態にして計算し総合的な不純物入りの相図を議論する予定である。また既に計算された相に対しても新たに物理量としてドゥルーデウェイトと局在長を計算して伝導性についての理解を深める。これらの物理量計算はこれまで不純物を入れた計算での特定の領域で見つかった不純物効果と強い電子相関効果によって引き起こされるパーシャルフィリングで起こる超伝導(金属)-モット絶縁体転移の分析を別方向から進めるのに役立つもので転移の確認をより確からしいものにするはずである。時間的に余裕があれば励起状態の計算も行う。励起状態を扱うにあたって励起状態を直接計算できる励起状態変分モンテカルロ法使う方法と摂動により状態を励起している領域に限った励起t-Jモデルを扱う方法を取る予定である。励起状態で起こる電子状態の振る舞いは基底状態とは異なるので特にダブロン、ホロンの動きに関しての波動関数部分を拡張し、モット物理からすぐ想起される動き以外にも対応した構成にする。研究発表に関しては不純物状態を考慮に入れた場合、各相だけを考慮した場合と混合状態にした場合をそれぞれ比べ、違いを明確にしながら聴衆に伝わりやすい内容をつきつめて国際会議等、日本物理学会などで発表し、また論文にも編纂する予定である。
|
Research Products
(6 results)