2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J01064
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
垣沼 絢子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2021-03-31
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Keywords | レヴュー / 宇津秀男 / 岡田恵吉 / 演劇の近代化 / 占領期演劇 / 伝統演劇 / ヌード |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、日本レヴュー史における岡田恵吉・宇津秀男の系譜を明らかにするために、二人が戦前・戦後に関わった複数のレヴュー劇場で活躍した下記の演出家を中心に研究した。 1)二人の師であり、日本に本格的にレヴューを輸入したとされる岸田辰彌について研究した。岸田の言説や実践を分析した結果、レヴューというジャンルが岸田にとって「西洋近代」の表象であり、岸田によるレヴューの上演は、舞台上で「西洋近代」の姿を見せると共に、日本の演劇環境を西洋近代化するための実践でもあったことが明らかになった。岡田・宇津は二人とも、こうした発想のもとで活躍した岸田のもとでレヴューを学んでおり、岸田のレヴュー観の分析は、宇津・岡田の言説や作品を分析する際の重要な指標となると思われる。 2)宇津・岡田が戦後牽引した東宝のヌードレヴュー劇場で、戦後を代表する伝統演劇の前衛演出家である武智鉄二が行った、ヌード能の実践について研究した。武智のヌードレヴュー劇場での実践では、武智の同時代および1960年代以降も続く思想に基づき、一貫した演出技法が使われており、1950年代の東宝のヌードレヴュー劇場が、前衛的な実験舞台創作の場として機能していたことが明らかになった。岡田・宇津のヌードレヴューもまた、そうした文脈の中にあると考えられる。 3)宇津・岡田の両人にとって、戦前の宝塚でのレヴュー実践から戦後の東宝でのヌードレヴュー実践へと移行する過程において最も重要であったと思われる、占領下における日本のレヴューの実態について研究した。今年度は、アメリカ国立公文書館でのGHQによる検閲台本などの資料調査と、学際的な視点からの知識の獲得を中心に、最終年度である来年度に向けて、これらの研究成果を発表し、まとめる準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本レヴュー史における宇津秀男・岡田恵吉の系譜について、資料収集・文献調査・成果発表のいずれにおいても、当初の予定通り、順調に進んでいる。 成果発表について、具体的にはまず、岸田辰彌の思想と実践について、論文が刊行された。武智鉄二の思想と実践については、国際演劇学会議において英語で口頭発表した。その内容をさらに深め、3月には日本語でも論文が刊行された。 また、アメリカ国立公文書館への資料調査で、GHQによる検閲台本を調査・収集し、占領期の日本演劇のあり方と、その中でのレヴューの位置づけ、東宝と松竹のレヴュー検閲の差、その中で宇津・岡田の果たした役割などについて、多くの知見を得た。岡田と宇津は占領期には、日本人向けのレヴュー演出と同時に進駐軍向けのレヴュー演出も行っており、前者についてはGHQによる検閲台本の調査を中心に、後者については手書き台本を中心に、それぞれの法的・経営的・芸術的な実態を、包括的に明らかにしていく必要がある。今年度は当初の計画通り、これらの資料調査も適宜行い、順調に研究を進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、来年度は、岡田恵吉・宇津秀男のレヴュー作品の分析と、それらの実践を、戦前から戦後にかけての日本レヴュー史のマッピングの中に位置づけ直す。特に、GHQによる検閲台本の調査から明らかになった、東宝(あるいは宝塚)と松竹という二つの巨大なレヴュー興行主の社会的な差と芸術的な差のズレに注目し、戦後レヴュー史におけるストリップティーズやヌードレヴューの役割を見直していく。これまで資料不足から不明であった占領期のレヴューの実態と社会的意義について、今年度収集・調査した資料などをもとに、明らかに出来ると思われる。
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Research Products
(4 results)