2018 Fiscal Year Annual Research Report
Development and application of new structural analysis on the light-induced radical pair by time-resolved electron spin resonance spectroscopy
Project/Area Number |
17J01125
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
長嶋 宏樹 神戸大学, 分子フォトサイエンスセンター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 電子スピン分極イメージング / クリプトクロム / 光化学 / 時間分解電子スピン共鳴 / シングレットフィッション / ラジカルペア / 五重項状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
渡り鳥やショウジョウバエなど、様々な動物が地磁気を感受する機能にクリプトクロムが重要な役割を果たすことが示唆されており、その分子機能に大きな関心が寄せられている。クリプトクロムの地磁気感受において、光電荷分離過程により生成するラジカル対のスピン状態が関与するラジカル対機構が提唱されている。クリプトクロムは色素としてフラビン(flavin adenine dinucleotide; FAD)を含む。この光励起状態が近傍の3つのトリプトファン残基(W400, W377, W324)に段階的に正孔を渡して、長距離電荷分離状態(FAD-W324(H)+)を生成することが知られている。 このような各段階の電荷分離反応が効率的に起こるためには、電荷分離状態の静電相互作用による安定化を乗り越える必要がある。近年の分子動力学計算により、長距離電荷分離に伴う水和の効果やトリプトファン残基の構造変化が予測されているものの実験的に立体配置を明らかにした例はなかった。本年度は電荷分離状態の立体配置と電子的カップリングの実験的解明を目的として、クリプトクロムにおける電荷分離状態の時間分解電子スピン共鳴スペクトルの温度依存性を調べた。得られた電子スピン共鳴スペクトルを、これまでに開発した電子スピン分極イメージング法により解析し、電荷分離の途中段階における構造を実験的に特徴づけることに成功した。 また、近年発見されたシングレットフィッション反応における三重項ペアの状態(五重項)の観測にも取り組み、三重項ペアの構造解析や、五重項状態形成機構を提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、電子スピン共鳴装置の改良を行った。電子スピン分極イメージングにより得られたカラーマップを元に、クリプトクロムの電荷分離状態の構造を明らかにし、さらに時間分解電子スピン共鳴スペクトルの温度依存性をもとに構造と温度、反応ダイナミクスの関係を明らかにした。温度効果については当初の計画にはなかったことであり、予想以上の進展であったと言える。 またテトラセン及びペンタセン誘導体におけるシングレットフィッション反応において生成した、三重項状態励起子二つからなる五重項状態を電子スピン共鳴法により観測することにも成功した。得られた電子スピン共鳴スペクトルの理論的な解析に取り組み、三重項状態のペアの構造と、反応における五重項状態形成機構を実験結果から議論できるようになった。この成果をもとに分子間シングレットフィッションにおける五重項状態形成機構を提唱した。さらに一分子内・分子間などの様々なシングレットフィッション系において電子スピン共鳴計測に取り組んだ。これらの五重項状態の観測及び解析は、当初の予想を超えて進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまで取り組んできた立体構造解析の検証に取り組む。これまでの研究において、クリプトクロム中に生じたラジカルペアの構造や シングレットフィッション材料において生じたトリプレットペアの構造解析に成功している。しかしながら、これらの結果はすべてXband(9GHz 帯)のcw-EPRを用いた時間分解EPR計測の結果に基づいている。これらの構造を元にメカニズムの議論を行うためには、構造のさらなる実験的な 検証が必要である。 そこで、これまでの研究で得られた構造についてさらなる検証を行うための手段として、パルスEPR, 高周波EPR(Q-band, W-band)を計画してい る。パルスEPR法により、cw-EPRでは観測の難しい相互作用を分離して測定することが可能である。また高周波EPRであれば、g値の異方性とい った、構造とEPR信号をダイレクトに特徴づける情報を高分解能で得ることができる。 これらの実験については、受入研究室で行うことは不可能である。そこで、Wasielewski group(アメリカ、Northwestern University)との共同研究によりすすめていく予定である。
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Research Products
(15 results)