2017 Fiscal Year Annual Research Report
重力波検出器KAGRAおよび次世代重力波検出器のための量子雑音低減法の開発
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17J01176
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長野 晃士 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 重力波検出器 / 量子光学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、重力波検出器の量子雑音低減技術実証の際に問題となる、懸架系の熱雑音を低減するために、光輻射圧によって鏡を支持する光学浮上技術の開発を主として行った。加えて、量子雑音低減技術を導入する大型低温重力波望遠鏡KAGRAの建設や調整にも携わった。 本研究で用いられる光学浮上技術は、サンドウィッチ型光学浮上と呼ばれるものである。サンドウィッチ型光学浮上では、曲率を持った鏡(浮上鏡)を上下から光共振器で挟むことによって、光バネを発生させ、鏡を光の輻射圧のみで安定に浮上させる。本年度は、これまでに検証されていない水平方向の光バネ安定性に焦点をおいた研究を行った。具体的には、ねじれ振り子を用いて浮上鏡を支持し、水平方向自由度に関しては鏡が擬似的に浮上している状況をつくり、低パワーのレーザー光源を用いて復元力の測定精度は十分であることが確かめた。 また、サンドウィッチ型光学浮上においては、浮上鏡の曲率を利用して復元力を発生させる。したがって、浮上鏡の安定浮上のためには、その曲率の評価が非常に重要となる。そこで、本研究では、共振器を縦方向に構成し、さらに微小鏡の片面ずつで光共振器を組めるようなセットアップを構成し、微小鏡の曲率を、実際の浮上の際に必要な要求値である3%以内の精度で測定することに成功した。 本研究で実証を目指している量子雑音低減技術は、現在建設が進んでいる大型低温重力波望遠鏡KAGRAの最終段階への導入を目指している。この技術を最も効率的に活用するためには、他の古典的雑音が十分低減されている必要があり、これまでに、KAGRAは初期段階の試運転を終え、最終段階に向けた改良を進めている。KAGRAの初期段階の試運転のために、私を含む多数のコラボレーターによって建設が進められた。特に私は、周波数安定化用の入射光学系のインストール等を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、サンドウィッチ型光学浮上による光バネ水平方向安定性の検証や、実際に製作した浮上のための微小鏡の特性評価や、本研究で実証する量子雑音低減法を導入する重力波検出器KAGRAの調整等を行った。以下、具体的に説明する。 まず、光バネ水平方向安定性については、ねじれ振り子を用いて浮上鏡を支持しすることで、水平方向については復元力が非常に小さい状況を作り出し、光バネの復元力が設計通りはたらけば、十分光バネの効果が測定できる系の構築に成功した。実際の検証は、用いていたレーザー強度増幅のためのアンプの故障により、達成されていないが、アンプの修理が完了し次第、水平方向安定性の検証が可能であると考えられる。 次に、浮上のための微小鏡の特性評価についてである。本研究で用いる微小鏡は、質量1.6 mg、厚さ0.1 mmという非常に小さいものであり、さらに水平方向光バネのために曲率が必要である。このような小さい鏡は取り扱いが難しく、通常の参照球を用いた曲率の測定が難しかった。そこで、本年度は、実際にその微小鏡を含む光共振器を構築し、その縦モード間隔を測定することで、微小鏡の曲率を測定する方法を考案した。この曲率測定の誤差は、実験セットアップの製作精度などにより、3%以下であることが要求されていたが、考案した方法ではこれを満たす測定精度を実現できた。 重力波検出器KAGRAの調整については、私を含む多数のコラボレーターに行われている。特に私は、周波数安定化用の入射光学系の調整に主に携わっている。これにより、世界初のkmクラスの基線長を持つ干渉計の地下運転に成功した。 これらの成果は、日本物理学会や、英文の論文雑誌等で発表されており、広く公開されている。 本年度は以上のような成果があり、機器の故障等の問題はあったものの、それ以外の部分については本研究は、概ね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、水平方向に限った光バネによる復元力の検証や、製作した微小鏡の特性評価などの実証を行ってきた。しかし、微小鏡を含む2組の共振器の同時アラインメント技術の実証などは行われていない。そこで今後は、まずアラインメント技術の開発に取り組む。サンドウィッチ型光学浮上においては、2組の光共振器の光軸が重力方向と0.02度の精度で合わせることが求められている。このような精度を手動で出すことは難しいため、自動アラインメント技術などを開発・導入する計画である。このような技術は、本研究だけでなく、広く光学実験において有用な技術になることが期待される。 その後、それまでに実証した要素技術や特性評価を統合し、実際に浮上可能な実験セットアップの構築を目指す。そのためには、浮上していない鏡の地面振動の防振のための振り子や板バネの製作等を行う。この設計では、有限要素法を用いた固有周波数解析などを用いて、共振周波数5 Hz以下の防振システムを開発する。 また、実際の浮上のためには、浮上前の微小鏡の変位量を十分抑えておく必要があることが分かっている。そのため、浮上前の微小鏡を、これまでも用いて来たねじれ振り子を用いて支持する計画であるが、その変位量をさらに低減するために、そのねじれ振り子の角度と変位の自由度を光てこ等を用いて制御する必要がある。そのような多自由度の制御では、それぞれの自由度間のカップリングが問題になると予想される。したがって、今後は、そのような多自由度制御の対角化の最適化手法も開発する。 これらの問題を解決し、実際に光学浮上を用いた量子雑音低減法の開発を進めていく計画である。
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