2018 Fiscal Year Annual Research Report
The Possibilities of Mourning Work in Jankelevitch's Idea of Nostalgia
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17J01451
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
奥堀 亜紀子 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 死生学 / 喪の作業 / フランス現代思想 / 赦しの問題 / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
宮城県石巻市を中心に「東日本大震災後の喪の作業の過程に見られる死者と生者の関係性の変容」に関するフィールドワークを継続した。前年度の分析を掘り下げ、本年度は具体的にある新しい問いを立てるに至った。具体的な研究成果は、日本現象学・社会科学会第35回大会において、「町があるとはどういう状態なのか ――震災経験が伝える死を出発点にして」と題して報告した。以下は報告の概要である。①調査内容の説明、②震災経験が伝える死の報告である。死について話ができないこと、東日本大震災はその事実をはっきりと私たちに認識させた出来事であった。死について語ることを阻んでいるのは、誰かとの関係の断絶でもある。関係の断絶は第二人称の死によって語られることが多いが、震災を経験した当事者にとって第二人称は、通常ならば第三人称の死の範囲に含まれる者にまで拡がっている可能性がある。ここまでが前年度の分析成果である。以上の死の人称性の問題を踏まえ、本年度は震災当時の様子を地政学的な観点から把握するよう努めた。そこで浮上してきたテーマが③「死」と「町」というテーマの接続で、そのために立てた問いが「町があるとはどういう状態なのか」であった。以上に至るまで、哲学的分析方法の構築に向けては、他者をめぐる人文学研究会ワークショップ、日本宗教学会第77回学術大会において報告を重ねた。フィールドワークの成果に関しては、第37回日本医学哲学・倫理学会大会、The 8th International Conference: Applied Ethics and Comparative Thought in East Asia(以下略して、AECTEA)において報告を重ねた。AECTEAの報告内容に関しては、『Journal of Innovative Ethics』のSpecial Issueに論文として掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究プログラムの達成度は、おおむね順調に進展している。
テーマ(1) 当事者の視点に立った研究者による震災学:平成29年8月からおこなっている宮城県石巻市を中心にしたフィールドワークを本年度も継続し、新しい問いを立て、その分析成果を報告することができた(日本医学哲学・倫理学会、日本現象学・社会科学会、AECTEA、日仏哲学会)。
テーマ(2) ジャンケレヴィッチの郷愁論における信仰の問題:平成31年2月3日から28日の期間は、エルサレム(イスラエル)でジョエル・アンセルと今後の研究について打ち合わせをおこなうと同時に、ジャンケレヴィッチの信仰論に関連する情報収集をおこなった。具体的には、AECTEAにおいて報告した「On the Question of the Dead or “Ghosts”: To Meditate for Disaster Victims」を中心に、今後の研究の方向性・遂行方法について議論を交わした。検討した内容は主に2点あった。1つ目は同じ問題として語られやすい「死」と「死者」の違いをジャンケレヴィッチと田辺の哲学を通して明確にしていく点であり(詳細は日本宗教学会で発表)、2つ目は死者の哲学または東日本大震災後の幽霊現象の問題を軸に、フィールドワークの成果を分析していく点であった(詳細は他者をめぐる人文学研究会で発表)。ジャンケレヴィッチの信仰論に関連する情報に関しては、International Conference Back to Redemption: Rosenzweig's “Star”1919-2019 (2月17~20日、The Van Leer Jerusalem Institute)の聴講を通して収集した。とりわけジャンケレヴィッチの周辺にいる哲学者であるレヴィナスやブーバーとの関連から人称性の問題を展開している報告者を選んで聴講した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は「喪の作業」としてのジャンケレヴィッチの郷愁論の構築をおこなう。
理論編:本年度の研究成果によって理解を進めた死者論の観点からジャンケレヴィッチの郷愁論を再検討するため、ジャンケレヴィッチの他者論が扱う問題整理を行う。とりわけ主観主義と他者論の信仰の問題、宗教哲学における私と他者の距離の問題の整理に取り掛かる。 イスラエルでの研究:本年度にイスラエルでおこなった議論のテーマは、AECTEAにおいて報告した「On the Question of the Dead or “Ghosts”: To Meditate for Disaster Victims」であった。課題として指摘を受けたのは以下の点であった。A.人災と天災の違い、B.人称的な視点から見た「死」と「死者」の違い、C.二人称の死の重要性をさらに強調させて三人称との差異の曖昧さについて議論を展開させる点であった。理論編で挙げた「喪の作業としてのジャンケレヴィッチの郷愁論」の構築に向けて、来年度もイスラエルを訪問し、とりわけ上記に挙げた問題を中心にジョエル・アンセルとの議論を継続させる予定である。 実践編:前年度から継続している宮城県石巻市でのフィールドワークは、方法論として「当事者の生活に馴染むこと」を用いている。地政学的とも言える方法論を通して、震災を経験した者の視点から見た死の人称性の揺れを分析している。本年度は、霊性の震災学と哲学の死者論の共通点として「幽霊現象」を取り上げ、分析を開始した。その他注目したのは、「町があるとはどういう状態なのか」という問いであった。来年度は以上の二つの問題を掘り下げ、とりわけ「彼らが失くした生活、日常生活自体が人間にとっていかなるものなのか」という根本問題を重点的に分析していき、理論編とイスラエルでの研究成果を含めて、3年間のフィールドワークの集大成をまとめていく予定である。
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