2017 Fiscal Year Annual Research Report
トランスオミクスを用いたヤマクマムシの乾眠誘導機構の解明及びその進化機構の研究
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17J01594
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
近藤 小雪 慶應義塾大学, 環境情報学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | クマムシ / 乾燥耐性 / ストレス / シグナル / トランスオミクス / リン酸化プロテオミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、トランスオミクスの手法を用いてヤマクマムシの乾眠誘導の初期応答機構を包括的に理解することを目的としている。本年度は、まず各オミクス解析の条件検討を行った後、本実験を行い、得られたデータについて個別の解析を行った。本実験以降の詳細は以下の通りである。 (1)リン酸化プロテオミクス 高湿度環境においてプレコンディショニングを0,15,60,180分行ったクマムシのリン酸化プロテオームを比較したところ、有意な変動がみられたリン酸化ペプチドを68種同定した。これらについて詳細な解析を行ったところ、AMPKの触媒サブユニットであるPRKAA2の乾燥ストレスに伴う脱リン酸化が観察された。哺乳類ではAMPKは脱リン酸化酵素であるPP2Aの基質として報告されている。また、これまでの研究から、ヤマクマムシの乾眠誘導にはPP2Aの活性化が必要であることを示唆していた。これらのことから、ヤマクマムシの乾燥応答にはPP2AによるAMPKの脱リン酸化が重要な役割を果たしている可能性がある。 (2)エピゲノミクス(ATAC-seq)及びトランスクリプトミクス(RNA-seq) プレコンディショニングを0分と180分行ったクマムシのオープンクロマチン領域のピークを比較したところ、遺伝子上流(5kbp以内)に存在し、乾燥処理により有意に上昇したピークの割合は1.5%のみだった。発現上昇遺伝子近傍のピークを調べたところ、ほとんどのピークは乾燥処理により減少していた。ATAC-seqのピークは転写活性化領域の指標とされているが、今回の結果は他生物種の先行研究の結果と矛盾するものである。さらに、トランスクリプトームでもこれまで乾燥処理により発現上昇していた複数の遺伝子が発現減少していた。これらの結果から、ATAC-seqとRNA-seqは再実験を行うべきであると判断し、現在準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
リン酸化プロテオミクスについては、当初の予定通りおおむね順調に進んでいる。一方、ATAC-seqとRNA-seqによる転写制御機構の解析については、当初の予想と異なる結果となり、またその解釈が非常に難しいことから再実験を行うこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
リン酸化プロテオミクスではPP2AとAMPKの関連が示唆されたことから、それらを確かめるために、PP2Aの阻害剤で処理したクマムシのリン酸化プロテオームを解析する予定である。ATAC-seqとRNA-seqの再実験については、すでに実験手法とデータ解析の流れを確立していることから、より迅速に遂行できる見込みである。得られた各オミクスデータは、機能解析等による検証と並行して、インフォマティクスによる統合を目指す。
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