2018 Fiscal Year Annual Research Report
トランスオミクスを用いたヤマクマムシの乾眠誘導機構の解明及びその進化機構の研究
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17J01594
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
近藤 小雪 慶應義塾大学, 環境情報学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | クマムシ / AMPK / PP2A / 解糖系 / 乾燥ストレス応答 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
乾眠誘導に関わるシグナル伝達経路を明らかにするために、2017年度は乾燥曝露したヤマクマムシ(Hypsibius exemplaris)を経時的にサンプリングし、リン酸化プロテオームの比較解析を行った。乾燥ストレスによってリン酸化タンパク質量が変動したタンパク質の特徴を明らかにするためにエンリッチメント解析を行ったところ、KEGG pathwayでは、AMPK signaling pathway, RNA transport, Hypertrophic cardiomyopathyの3種のエンリッチメントが見られていた。これらのパスウェイに含まれていたリン酸化タンパク質の内、AMPKのみが主要なシグナル伝達分子であったことから、乾眠誘導に重要な役割を果たしている可能性を考え、2018年度はその検証を行った。まず、事前にAMPK阻害剤溶液に浸漬したヤマクマムシを乾燥曝露し、乾眠後の回復率を検討した。その結果、AMPKは乾燥ストレスにより活性化し、その活性は乾眠に必要であることが示された。次に、AMPKのリン酸化タンパク質量の低下がPP2Aの脱リン酸化による可能性を検証するために、PP2A阻害剤処理後に乾燥曝露を行ったクマムシのリン酸化プロテオミクスを行い、PP2A阻害剤処理によりAMPKのリン酸化タンパク質量の低下が消失することを明らかにした。さらに解糖系に関わるリン酸化タンパク質量の変化も消失していたことから、PP2Aの下流ではAMPK及び解糖系が制御されていることを示唆した。これらの研究成果は、クマムシの乾眠制御に関わる分子基盤の一端を明らかにするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでにヤマクマムシの乾眠誘導にはPP2Aの活性が必要であることを示していたが、2018年度はその下流の分子ネットワークを明らかにし、ヤマクマムシの乾眠誘導に関わる分子基盤の一端を明らかにすることができた。具体的には、ヤマクマムシの乾眠誘導にAMPKの活性が必要であること、及びその上流制御因子がPP2Aであることを示した。さらに、AMPKの下流では解糖系が制御されていることを示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度はまずAMPK活性測定キットを用いて乾燥曝露によりAMPKが活性化するかどうかを検証する。このことは既にAMPK阻害剤を用いた実験により示しているが、別の方法でも検証する。市販のキット(ヒト用)を用いるので、これがクマムシでも利用できるかを最初に検討する必要がある。供試する匹数などの条件が決定したら、高湿度環境に曝露したクマムシと、事前にPP2A阻害剤処理してから高湿度曝露したクマムシのAMPK活性を検討する。これにより、PP2Aの下流でAMPKが制御されているかどうかも検証できる。 乾眠誘導への関与が示唆されたシグナル伝達分子は酸化ストレス応答への関与が知られている分子を多数含んでいた。このことから、ヤマクマムシの乾眠誘導は酸化ストレス応答との共通性が推測される。そこで、乾燥曝露したクマムシの酸化ストレス状態をグルタチオン測定キットを用いて測定する。特に、PP2A阻害剤やAMPK活性化剤を事前に処理することによって酸化ストレス状態が変化するか検討する。 さらに、転写応答機構を明らかにするために、Yeast one Hybrid(Y1H)により乾燥応答性シスエレメントの探索を行う。シスエレメントの候補は2018年度までに行ったATAC-seqにより複数得ているので、それらを順次試す。これにより、乾燥応答性の転写因子とシスエレメントという異なる階層(タンパク質とDNA)を繋ぐことを試みる。
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