2018 Fiscal Year Annual Research Report
発話の共有に関する言語的社会化研究―カメルーン狩猟採集社会子ども-大人間相互行為
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17J01622
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
園田 浩司 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 相互行為環境 / くりかえし / 言語習得 / 社会化 / バカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、カメルーンの狩猟採集民バカの子ども―大人間相互行為に見られる「発話共有」現象 (子ども話者の発話を、大人話者がくりかえす現象) に注目し、バカの子どもの言語社会化過程を描き出すことを目的としている。2018年度は研究課題関連文献の渉猟、海外調査の遂行、研究論文と出版物の執筆に取り組んだ。国内雑誌に、獲物の解体場で取り分を要求する子ども達の相互行為戦略に関する論文を、また海外雑誌に、バカの子ども達が行う集団オニネズミ猟で見られる行為指示の平等主義的言語使用を主題とする論文を投稿した。いずれも発話のくりかえしを分析対象に含んでおり、発話共有がどのような相互行為の文脈を生起させるのか検討した。また、2018年7月にマレーシアで行われた第12回国際狩猟採集社会会議(CHaGS12)の参加報告を、他研究者らと共に『文化人類学』に執筆した。 2018年8月に行われたカメルーン東部州現地調査では、言語発達の途上にある子どもの相互行為場面の動画収集、聞き取りと参与観察に基づく世帯調査、言語習得調査を行った。これらは狩猟採集民バカと近隣農耕民ジメの両集落で行われたが、とくに言語習得調査では、子どもの発話内容、大人による言葉がけ、発話の相手など、子どもを取り巻く相互行為環境を理解するための質問調査を進めた。収集された動画資料については今後、書き起こし作業が必要だが、聞き取り調査からは大人の行為指示に対し、「子どもが同一発話をくりかえす」事例も得られ、バカ語話者にとって、くりかえしによる応答が適切である社会文化的文脈を考察するための手がかりが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画の予定通り、2018年度は二本の学術雑誌論文を執筆した。大阪大学文学研究科で実施されるデータ・セッションにて、現地調査で収集した動画資料の分析を行いながら、研究課題の理論的方向性と問題の所在の精緻化を進めているところである。また、研究対象言語であるバカ語の文法研究にも取り組んでいるが、当該言語の持つ語の多義性やトーンを理解する必要性など、筆者が克服すべき課題が見えてきた。引き続き現地インフォーマントの協力を仰ぎつつ、バカ語の言語研究をさらに進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる2019年度に取り組む内容は、以下の通りである。(1)前年度に引き続き、カメルーン東部州にて補足的調査を実施する。主な内容は、会話データの補充、既に記録した動画資料の言語的情報の精緻化、書き起こし、また子どもの相互行為環境、言語習得に関する聞き取り、である。(2)大阪大学文学研究科や京都大学で実施されるデータ・セッションにて発表を複数回行いながら、理論的枠組みの洗練化を目指す。(3)子ども発話をくりかえす大人(聞き手)の認識的優位の主張を主題にした、会話分析アプローチによる論文執筆を進める。また、これまでの成果をまとめた単著の構想を練る。
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