2017 Fiscal Year Annual Research Report
皮膚組織における階層的構造形成と機能の動的相関:病理への展開
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17J01643
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
星野 拓馬 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 積層脂質膜 / 物質浸透 / 膜の濃度ゆらぎ / 皮膚ガン / ガンの増殖モデル / 流体力学的効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
私はこれまで指導教員とともに2つの課題を中心に研究を進めてきた。それぞれの実施状況について以下に述べる。 (1) 積層脂質膜における物質浸透 予定では「具体的にはこれまでの積層脂質膜のプログラムを元に、添加物質の浸透性を考慮したプログラムを新たに加えて、シミュレーションを実行した。シミュレーションでは温度、膜間相互作用 J′、添加物質の大きさなどをパラメータとして、膜の浸透性を定量的に測定した。私は膜に対する物質の浸透性に着目し、定量的な評価を行った。評価の際は膜の温度や物質のサイズ、さらには化学的な性質の強さを変化させた。これによって積層脂質膜の物質浸透が「膜の濃度ゆらぎ」という物質現象によって、膜の転移温度付近で誘起されることが明らかになった。私はこれらの結果は論文雑誌であるEPLに去年の12月出版された。また、スロベニアでの国際学会やスイスでのワークショップに参加し、成果を発表した。 (2) 皮膚ガンのパターン形成 課題(1)の投稿を行う以前から、課題(2)に関しての研究を開始した。まず私はシミュレーションのモデル構築を始めた。モデル構築の際、特にガン細胞の増殖に関係する項の形には注意した。ガン化の効果について精度を高めるため、私は12月に二週間ほど台湾の共同研究者と複数回の議論を行った。その結果、ミトコンドリアなどの増殖のモデルを取り込むことに決定した。その後、シミュレーションとその結果のまとめを行った。シミュレーションにおいては動的な皮膚ガンのパターンの変化を、パラメーターを変えながら調べた。主な結果として、診断に現れる皮膚ガンのパターンは定性的にシミュレーションでのガン化が遅く、流体力学的効果が強いときであるということが示唆された。今後は課題(2)での論文執筆を早い段階で行い、今年の夏頃までの論文投稿を目標としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題(1) 積層脂質膜における物質浸透については、予め予定していたように初年度のうちに論文の投稿から出版まで至った[T. Hoshino, S. Komura, and D. Andelman, Permeation through a lamellar stack of lipid mixtures, Europhysics Letters 120, 18004 (7pp) (2017)]。なお、本研究はテルアビブ大学(イスラエル)のDavid Andelman教授との共同研究で行った。論文を執筆した際は、シミュレーションで変化させたパラメータと物質の浸透性との間の関係に注意した。また、共同研究者との論文校正を十分行うことで、論文の質を最大限高めてから投稿した。これによって、論文投稿から修正の作業が短時間で終了した。また、論文の作成などが順調だったため、国際学会での発表なども複数回行うことができたことも、成果としてあげられる。
課題(2) 皮膚ガンのパターン形成については、想定していた研究の進捗に概ね達成していると考えている。モデルの構築は想定していた時間より多くなった。これは、モデルを一旦構築してから台湾の共同研究者であるWu教授との打ち合わせを行ったことに起因する。はじめガンの増殖率で用いていた式は、ガンが少ないところでも大きく増殖するモデルとなっていた。しかし現実の皮膚ガンでは、紫外線などでガンが発生してもすぐにはガンは増殖せず、ある程度の量になってから大きく増殖する。このような効果を共同研究者との議論によって導入してからは、シミュレーションや結果のまとめは順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
課題(1)積層脂質膜における物質浸透については、7月に京都で開催される国際学会への参加を予定している。研究の発表を行うことで、論文の成果を国の内外へ知らせることができる。研究の課題などを指摘してもらうこともあるので、その場合はエラータを出すなど、柔軟に対応する。
課題(2) 皮膚ガンのパターン形成については最終年度であるので、主にシミュレーションおよび結果をまとめることで、論文の出版まで目指す。 シミュレーションは計算用コンピュータを活用し、特にガンのパターン形成に影響の大きい「ガン化率」および「流体力学的相互作用」に着目をする。このようなシミュレーションを通して、ガンの形成に寄与する物理量の見積もりを行う。これらのシミュレーションの結果がまとまり次第、論文の執筆を行う。論文執筆の際には担当教員および共同研究者である台湾国立精華大学のWu教授と議論を行う。論文の投稿は夏頃を予定している。
秋以降も国内・国外の学会で課題(1)およで研究の進み具合に応じて課題(2)も併せ て発表を積極的に行っていく。年末には博士論文を完了させるため、秋以降に海外での研究の打ち合わせも行う。この海外での打ち合わせに関しては渡航費を申請する予定である。
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Research Products
(11 results)