2018 Fiscal Year Annual Research Report
多点固定化により金属タンパク質を精密複合化した電極材料の構築とバイオデバイス応用
Project/Area Number |
17J01654
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井上 望 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | タンパク質修飾 / N末端選択的修飾 / ヘムタンパク質 / タンパク質固定化 / クリックケミストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
バイオ燃料電池はエネルギー分野や農業分野あるいは医療分野への応用が期待されるバイオデバイスである。とくに金属タンパク質の酸化還元反応を用いたバイオ燃料電池の高性能化において、より高い電極特性を達成するためには、タンパク質と電極材料間の効率的電子移動の実現が強く求められる。そこで、活性中心となる補因子の配向性を制御し、金属タンパク質を電極上に多点で固定化した系を構築するために、合成化学的アプローチと生化学的アプローチを統合した金属タンパク質-電極材料複合化手法の確立をめざした。活性中心に補因子ヘムを有する電子伝達タンパク質シトクロムb562をモデルタンパク質に選定した。アジド基を有するヘムをアポシトクロムb562に挿入することで、アジド基を有するシトクロムb562を調製し、金電極へのタンパク質固定化の条件検討・電気化学的評価を試みた。 合わせて、タンパク質N末端選択的に機能性分子修飾剤の開発にも取り組んだ。本研究では、タンパク質に普遍的に存在し、機能への影響が小さいと考えられるN末端アミノ基をターゲットに選択した。アルキンとアジドを前駆体とし、銅を触媒とする環化付加反応(CuAAC反応)により簡便に合成することが可能である1,2,3-トリアゾール-4-カルボアルデヒド(TA4C)誘導体がN末端アミノ基に選択的に作用し、イミダゾリジノン環を形成することを見出した。種々のTA4C誘導体を用い、モデルペプチド・タンパク質との反応も実施した。さらに質量分析による修飾反応の評価から、本反応がN末端選択的に進行することを確認した。補因子およびTA4Cにより修飾されたシトクロムb562の二点固定化について現在検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原子間力顕微鏡を用いた固定化タンパク質の可視化に向け、平滑な金電極上へのアルキン基導入手法の検討を行った。また、異なる長さのリンカーを介してアジド基を補因子ヘムに直接導入したシトクロムb562を調製し、アルキン基修飾金電極への固定化を検討した。これに加えて、多点固定化に向けタンパク質マトリクスに機能性分子を簡便に一段階で導入する手法の開発にも取り組んだ。修飾法の普遍性と機能への影響低減の観点から、タンパク質N末端アミノ基をターゲットに選択し、含窒素芳香族カルボニル化合物を母骨格とする種々のN末端修飾剤を合成し、モデルペプチドとの反応評価を質量分析法により行った。中でも、1,2,3,-トリアゾール-4-カルボアルデヒド(TA4C)誘導体は高いN末端選択性および修飾率を示すことを見出した。本化合物群は、従来のN末端修飾剤に比べ、購入可能なアルキンおよびアジド化合物前駆体などから簡便に合成することが可能な点で優れる。TA4C誘導体による種々のタンパク質基質へのN末端機能性分子導入では温和な条件下~80%と良好な修飾率が得られた。また、本手法を用いて、ビオチン・蛍光色素・ポリマー材料のN末端選択的な導入を達成している。現在、当初の計画どおりアジド基が補因子ヘムおよびN末端にアルキン基・アジド基が導入されたシトクロムb562の調製とCuAAC反応を介した電極基板上への二点固定化について検討を進めている。 以上のように、本研究課題の実施によって酸化還元活性なヘムタンパク質の電極材料表面への配向性を制御した固定化と、タンパク質N末端選択的かつ一段階での機能性分子導入が可能となった。これらの研究成果をもとに、複数の学会での発表を行い国内外より大きな反響を得ている。また特許申請・学術論文の作成を進めており、本研究課題はおおむね順調に進展したと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の実施によって、効率的な電子伝達を実現する、電極材料と酸化還元活性なヘムタンパク質を複合化したバイオハイブリッド電極の構築に成功した。現在、電極上におけるヘムタンパク質の挙動解析に向けたサンプル調製の検討を行っている。金電極へのアルキン基導入量の調節によって、適度にタンパク質が分散して固定化されたサンプル調製が可能となる。またN末端選択的な一段階での機能性分子導入剤TA4Cの開発も達成している。今後はこれまでの電極修飾/タンパク質修飾技術を統合し、ヘムタンパク質を電極表面に多点で固定化することで、空間配置に加えて動的挙動が精密に制御されたバイオハイブリッド電極の構築をめざす。具体的には、アジド基が補因子ヘムおよびN末端に導入されたシトクロムb562の調製とCuAAC反応あるいは歪み解消型環化付加反応(SPAAC反応)を介した電極基板上への二点固定化を行い、得られたヘムタンパク質多点固定化電極のサイクリックボルタンメトリー測定・インピーダンス測定など電気化学測定からタンパク質の固定化量・電子伝達効率などの電極特性を評価する。また一点で固定化した系との電気化学的特性の違いについても検討する。さらに、タンパク質固定化構造を原子間力顕微鏡(AFM)、紫外可視・赤外分光法など分光学的手法からも評価が可能である。得られた知見を基に、シトクロムb562修飾に用いるリンカー分子の構造を検討することで、精密な固定化構造構築に向けた最適化が期待できる。 以上のように、タンパク質二点固定化電極の作成と評価系の構築に加えて、構造の最適化による電極機能向上が今後の推進方策として挙げられる。
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