2017 Fiscal Year Annual Research Report
一酸化炭素近赤外線吸収バンドから探る活動銀河核トーラス内縁の物理状態と構造
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17J01789
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 俊介 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 活動銀河核 / 活動銀河核統一モデル / 活動銀河核トーラス / 活動銀河核-星形成相互作用 / 赤外線天文衛星「あかり」 / 近赤外線分光観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、「あかり」衛星の分光観測データを用いて活動銀河核(AGN)における一酸化炭素(CO)ガス近赤外線振動回転吸収バンドを多天体で解析することで、AGN統一モデルが予言するAGN周囲のトーラス状分子雲(AGNトーラス)を観測し、その物理状態と構造を明らかにすることを目指している。 今年度は、(1)「あかり」の観測データにおいてCO吸収バンドの解析を妨げていた回折二次光汚染の補正を完了することと、(2)それに基づき多天体で系統的にCOバンドを解析することを予定していた。以下、各項目について研究実績を詳細に述べる。 (1)未完了であった衛星製冷却用液体ヘリウム(LHe)枯渇後の二次光補正を、過去に出版済みのLHe残存中での補正と同様に行った。LHe枯渇後は観測装置の温度が不安定なため、補正の温度依存性も定量化した。これにより「あかり」観測の較正精度が向上し、(2)の統計的研究が可能となった。 (2)まず、LHe残存中の「あかり」とSpitzer宇宙望遠鏡の観測データを用いて行ったAGN 10天体でのCOバンドの解析結果を出版した。この論文は、AGNトーラスに相当する高温・大柱密度の分子ガスが実在し、COバンドがそれを選択的にプローブしていることを示した。次に、前項の補正に基づき「あかり」のLHe枯渇後観測データを較正し、先の論文より暗い銀河まで含めた計47天体で、COバンドを系統的に解析した。その結果、高温・大柱密度の分子ガスの存在形態が中心核光度に依存すること、核周辺での星形成を伴うAGNではトーラスが厚くなる可能性があることが明らかになった。COバンドの解析を複数のAGNに対し統一的に行ったのはこれらの研究が初めてであり、AGNトーラス観測にCOバンドという新たな指標をもたらした点、高温分子ガスの存在形態の光度依存性と周辺星形成活動との関連を明らかにした点で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度予定していたのは、(1)「あかり」の近赤外線分光観測データにおいてCO吸収バンドの解析を妨げていた回折二次光汚染の補正を完了すること、(2)それに基づいてAGN多天体で系統的にCOバンドを解析することである。このうち、(2)には、(2a)二次光補正に基づいたAGN数十天体の近赤外線スペクトルサンプルを作成すること、(2b)AGNトーラス中の分子ガスの物理状態を推定し空間分布を評価するための解析プログラムツールを構築することの2点が含まれている。 (1)は予定通り完了することができた。この結果は現在出版準備中である。 (2)に関連して、予定はしていなかったが、(2a)に先駆けて、採用以前に行ったAGN少数サンプルでのCOバンド解析の結果を他のX線・中間赤外線観測の結果と比較し、CO吸収がプローブしている領域の位置を議論した。これにより、CO吸収バンドがAGN近傍の高温・大柱密度分子ガスのプローブとして有効であることを示すことに成功した。これは本研究課題の手法を支持する結果である。この成果はAstrophysical Journalにて出版した。(2a)は予定通り完了した。(2b)については、「あかり」液体ヘリウム枯渇後のスペクトルのノイズレベルが想定より高く、申請書に記載した高温分子ガスの空間的広がりまで考慮する自由度の高いモデル(「吸収+放射モデル」)を直接観測スペクトルへ当て嵌めるのは困難であると判断し、今年度の実施を見送った。その代わりに、まずは従来の吸収モデルに基づいて(2a)のスペクトルサンプルを系統的に解析し、高温・大柱密度分子ガスの存在形態を、中心核光度や核周辺星形成活動と比較して議論した(「研究実績の概要」(2)参照)。これにより、次年度に予定していた内容を部分的に達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、今年度実施を見送った内容である、「吸収+放射モデル」に基づく解析プログラムツールの構築を行う。その後、中心核光度や母銀河の可視分類ごとで観測されたCO吸収スペクトルを平均することでノイズレベルを下げ、各グループごとに「吸収+放射モデル」による解析を行う。 並行して、ALMA望遠鏡により得られた近傍AGN中心核におけるCO(6-5)輝線の高空間分解能観測の結果を解析する。こららの観測は採用以前に提出した観測プロポーザルが受理された結果、今年度中に新たに実施されたものである。 中心核に熱されたコンパクトな領域のダスト熱放射を背景光としてCO吸収バンドを観測する間接的な空間分解観測と、ALMA望遠鏡を利用した直接空間分解観測は、ガスの空間分布が間接的にしか分からないが統計的研究が可能という点と、ガス分布が直接得られるが限られた天体でしか行えないという点で相補的である。上記の2点を行った後は両者の結果を相互に比較し,高温・大柱密度分子ガスの物理状態と構造を考察する。
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