2018 Fiscal Year Annual Research Report
らせん構造制御を基軸とする両極性有機半導体の創製と高性能有機薄膜太陽電池への応用
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17J01940
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
和田 侑也 金沢大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ポリイソシアニド / 不斉増幅 / らせん / 有機半導体 / キラル分離剤 / 円偏光発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、昨年度見出した「アミノ酸由来イソシアニドモノマーを重合する際に発現する高度な不斉増幅現象」に関して、不斉伝搬のメカニズムを明らかにするために、重合挙動を徹底的に調査した。さらには、当該重合系におけるモノマー側鎖構造の汎用性の高さを活かして、様々の機能性ユニットを有する不斉増幅型ポリマーを合成し、機能性キラル材料への応用を試みた。 詳細な重合解析、原子間力顕微鏡観察、全原子動力学計算を含む様々な検討から、本重合系では、「イソシアニドモノマーの重合」と「それにより生成するポリイソシアニドを構成単位とする一次元超分子集合体形成」が同時に起こることを明らかにした。また、観測された高度な不斉増幅現象は、一次元超分子集合体中のポリマー1分子鎖内の不斉伝搬とポリマー鎖間で生じる不斉伝搬によって生じていることが明らかとなった。 高速液体クロマトグラフィー用キラル分離剤への応用を目指して、側鎖に相互作用部位としてエステル基を有するポリイソシアニドを合成した。当該ポリマー溶液をシリカゲルにコーティングすることでキラル充填剤を調製し、キラルカラムを作製した。得られたキラルカラムにラセミ体溶液を通液することで、光学分割能力を評価したところ、様々のラセミ体に対して不斉識別能力を示すことが明らかとなった。 蛍光発光性の側鎖としてベンゾジチオフェンユニットを含有するπ共役側鎖を導入したイソシアニドモノマーを合成し、重合することで得られたポリマーを円偏光発光(CPL)材料へと応用した。得られたポリマーは溶液状態ではCPL特性を示さなかったものの、固体状態で良好なCPL特性を示すことが明らかとなった。これは、固体状態で一方向巻きに片寄った不斉増幅型らせんポリマーがさらに、不斉な集積体を形成することで生じたと考えられる。以上の結果は、極僅かな不斉源から機能性キラル材料を開発できることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請時には、平成30年度の研究計画として、「らせん状両極性半導体の有機薄膜太陽電池への応用」といった課題を挙げていた。研究実績の概要に記載の通り、両極性半導体材料の開発には未だ至っていないが、その過程で発見した「アミノ酸由来イソシアニドモノマーを重合する際に発現する高度な不斉増幅現象」に関して、その不斉伝播のメカニズムや重合機構を明らかにし、現在、これらの結果を海外学術誌へ投稿する準備を行なっている。また、本現象を最大限に活かした機能性キラル材料開発にも取り組んだ。性能と分子構造との相関の調査、試料調製・評価などの諸条件の精査を鋭意取り組んでいる最中であるが、目的に合わせて分子構造を設計することで、非常に僅かな不斉な要因であっても機能性キラル材料へと応用可能であることを実証した。当初の目的は未達成であるが、上述の結果は、学術的及び工業的にも十分意義があると考えられるため、「概ね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下に示す4つの研究課題について取り組む。 課題1: 重合機構及び不斉増幅メカニズムを解明する。本重合系のさらなる解析を、原子間力顕微鏡観察、全原子動力学計算などを駆使しながら行い、これらの結果を海外学術誌へと投稿する。 課題2: 高性能キラル分離剤の開発を行う。側鎖構造が異なる様々なポリマーを合成し、高速液体クロマトグラフィー用キラル分離剤へと応用する。具体的には、相互作用部位を適切に選択しアルキル鎖長をチューニングすることで不斉識別能と分子構造との相関を明らかにする。また、光学分割能力の評価条件を最適化することで、高性能化を目指す。 課題3: 高性能円偏光発光材料の開発を行う。ポリマー鎖の巻き方向制御だけではなく、当該ポリマーの階層構造を緻密に制御するために試料調整条件 (温度、溶媒、濃度など)を精査する。らせんポリマー鎖が階層的にらせん状集積することで、さらに高い円偏光度を示すことが期待できる。ポリイソシアニドの高密構造に起因する自己消光現象をなるべく緩和するために、凝集状態で良好な蛍光特性を示すユニットを選択し側鎖に導入することで、分子構造と円偏光特性との関係についてさらなる知見を得る。 課題4: 両極性半導体材料の開発を行う。不斉増幅型らせん状ポリイソシアニドの側鎖ユニットをp/n連結側鎖に置き換えることで、らせん状両極性半導体の開発を目指す。また、当初の計画通り、ポリマー末端にホスホン酸基を複数個有する多脚型アンカー基を導入することで、ポリマー鎖を垂直自立させる。制限電荷空間電流法と電界効果トランジスタ法を駆使することで、電荷移動度の異方性に関する知見を得る。
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