2018 Fiscal Year Annual Research Report
マルチスケール解析による複合材料製航空機構造の長期耐久性評価に関する研究
Project/Area Number |
17J02004
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
熊谷 裕太 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
|
Keywords | マルチスケールモデリング / 繊維強化複合材料 / 高分子材料 / 連続体損傷力学 / マイクロメカニクス / 有限要素法 / 分子動力学法 / 損傷解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で対象とする炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、金属材料と比較して高い比強度・比剛性を有するため、構造部材に用いることで金属材料よりも軽量な構造を実現できる。しかしながら、CFRP製部材は材料の構成要素に起因した階層的構造を有するため、健全性を評価することは容易ではない。そこで本研究では、強化繊維と母材樹脂からなる微視的内部構造と構造部材等での巨視的変形場を同時に考慮して部材の強度を予測する、マルチスケール解析手法の開発を進めている。 2018年度は、CFRP製部材の強度への影響が大きい母材樹脂に関して、(1) CFRP積層板のマトリクスクラック発生予測のための母材樹脂の構成則・破壊基準のモデリング、(2) CFRP製部材製造時に生じる残留応力予測へ向けた分子動力学法による成形プロセス中の母材樹脂特性予測、を行った。(1)では、2017年度に実施したエポキシ樹脂単体での検討に基づき、CFRPの損傷形態の一つであるマトリクスクラックの発生予測のための母材樹脂の構成則・き裂発生基準のモデリングを行った。本検討にて構築したマルチスケール有限要素解析コードを先行研究で報告された疑似等方積層板の引張試験に適用した結果、積層板内の最弱層である90°層のトランスバースクラック発生ひずみを、解析を行った積層構成の7割で精度よく予測することが出来た。当該研究の成果は、国内学会での発表2件として報告した。また2019年度には国際誌への論文投稿を予定している。(2)では、部材強度に影響を与える部材成形プロセス後の残留応力の予測に向けて、母材樹脂の硬化プロセス中の特性変化の実験的評価と分子動力学法による予測を行った。その結果、実験的に測定された硬化収縮変形などの傾向を分子動力学解析により再現できることを確認した。当該研究の成果は、2019年度に国際誌へ論文を投稿することを予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度終了時点の計画では、申請時の計画を一部変更して(1) CFRP積層板の非線形特性や強度予測のための構成則・破壊基準のモデリングと検証、(2) マルチスケール解析手法の高度化、を実施するとしており、おおむね順調に進展しているといえる。 (1)では、計画通りCFRP積層板のマトリクスクラックの発生予測のための母材樹脂の構成則・破壊基準のモデリングと検証を行った。本項目を通して構築したマルチスケール有限要素解析コードを先行研究で報告された疑似等方積層板の引張試験に適用することで、積層板内の最弱層である90°層でのトランスバースクラック発生ひずみを、解析を実施した積層構成の7割の場合で精度よく予測することが出来た。マルチスケール解析により精度よく予測することが出来なかった3割の場合については、より詳細な検討のための引張試験および微視的観察を実施する準備を進めており、(1)についてはおおむね順調に進展しているといえる。 (2)では、CFRP製部材強度に影響を与える部材成形プロセス後の残留応力を考慮した強度予測手法の構築に向けて、母材樹脂の硬化プロセス中の特性変化の実験的評価と分子動力学法による予測を行った。分子動力学法の使用は当初の予定にはなかったものの、母材樹脂の硬化反応に伴う特性の予測には有効な手段の一つである。分子構造が既知のエポキシ樹脂を用いて、硬化反応中の特性変化の実験的評価と、本項目を通して構築した汎用分子動力学解析ソフトウェア向けのスクリプトを用いた数値解析の比較により、実験的に測定された硬化収縮変形などの傾向を分子動力学解析により再現できることを確認できたため、(2)についてもおおむね順調に進展しているといえる。 以上により、全体としておおむね順調に進展していると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
2019年度は、2018年度までに構築したマルチスケール解析手法を用いて、(1) CFRP積層板におけるトランスバースクラックの発生メカニズムに関する詳細な検討、(2) CFRP製部材成形後の残留変形・残留応力のマルチスケール解析による予測、を実施する。(1)については、2018年度に構築したマルチスケール有限要素解析手法のトランスバースクラック発生ひずみの予測精度向上へ向けて、疑似等方積層板の引張試験を行い、ビデオマイクロスコープやX線CT装置による微視的観察を実施することで実験データを蓄積する。その後、本研究で構築したマルチスケール有限要素解析手法と引張試験の結果の比較を通して数値解析におけるモデル化手法を改善し、き裂発生の予測精度を向上する。そして、改良した数値解析手法と実験の結果に基づき、疑似等方積層板におけるトランスバースクラックの発生メカニズムについて検討する予定である。(2)については、2018年度までに構築した汎用分子動力学解析ソフトウェアによる母材樹脂特性予測手法をマルチスケール有限要素解析コードと組み合わせることにより、CFRP製構造部材の製造プロセス後に生じる残留変形・残留応力の予測を行う。構築した手法の妥当性を評価するため、CFRP積層板の成形後残留変形を測定し、解析結果との比較を行う。また、複数の母材樹脂を対象としてマルチスケール解析を行い、母材樹脂の特性が成形後の残留変形・残留応力へ与える影響を検討する予定である。さらに、上記の検討を通して、複合材料製構造部材の成形から破壊までを対象としたマルチスケール解析手法の構築に向けて、数値解析が考慮すべき現象や材料特性について検討する。
|