2017 Fiscal Year Annual Research Report
Evaluating the interactions of lipid raft and proteins involved in phototransduction by using a micropatterned model membrane
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17J02031
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
谷本 泰士 神戸大学, 農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 脂質ラフト / 人工生体膜 / 光シグナル / GPCR / 一分子観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
椎動物の視細胞桿体外節において、光シグナルは生体膜を介して伝達される。光刺激はG-タンパク質共役受容体(GPCR)ロドプシン(Rh)に受容された後、三量体G-タンパク質トランスデューシン(Gt)、cGMP-ホスホジエステラーゼ(PDE6)へと伝達される。光シグナル情報伝達は、他にも、Rh を不活性化するロドプシンキナーゼ(GRK1)や、GRK1 をCa2+依存的に制御するリカバリン(Rec)、等により制御されている。 近年では、生体膜を介したシグナル伝達の制御に脂質膜ドメイン(脂質ラフト)が関与していると考えられており、視細胞の膜タンパク質は脂質ラフトへの局在(ラフト親和性)を変化させることで、光シグナル伝達を制御していると推測されている。しかし、生体膜中の脂質ラフトは微小かつ短寿命なため、ラフト親和性を定量的に評価することが出来ず、上記の仮説が証明される事はなかった。我々は、ガラス基板上にパターン状にラフト領域(Liquid order (Lo)相)と非ラフト領域(Liquid disorder(Ld)相)を持つモデル生体膜を作製する技術を開発してきた。以前に、このパターン化膜へ膜タンパク質を再構成し、Lo/Ld分配を測定することで、ラフト親和性定量評価に成功した。この技術を応用して、光シグナル伝達を担う膜タンパク質の脂質ラフト親和性を網羅的に定量し、細胞内での脂質ラフトへの局在を定量な評価を試みた。さらに、推測されたラフト局在より、光シグナル伝達における脂質ラフトの機能的役割を解明する事を目的に研究を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
光シグナル伝達における脂質ラフトの役割を解明するため、光シグナル伝達に関与する主要な膜タンパク質群をパターン化人工膜に再構成しラフト親和性を定量することに成功した。その結果、光活性化したロドプシン光受容体(Rh)がGタンパク質トランスデューシン(Gt)と複合体を形成しラフトへの親和性が高まることを定量的に示した。また、このラフト親和性上昇がRhの脂質修飾(パルミトイル鎖)によることを示した。さらに、cGMP-ホスホジエステラーゼ(PDE6)、ロドプシンキナーゼ(GRK1)のラフト親和性が極めて低いことを定量的に示した。GRK1は光活性化したRhをリン酸化して不活性化することから、Rh-Gt複合体とGRK1とが異なるラフト親和性を持つことは、ロドプシン受容体の活性化寿命およびシグナル伝達効率を増進する効果があるものと推測される。本研究において得られた人工膜を用いて得られたラフト親和性をもとに、速度論的シミュレーションモデルを構築し解析した結果、ラフトが光シグナル伝達を増進するという仮説が支持された。これらのIn vitroおよびin silicoおける定量的な解析は、ラフトのシグナル伝達における役割を解明する方法論を確立する重要な成果であると言える。本成果は、数々の国際学会で発表されたほか、現在、論文投稿の準備が進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
Rhは生体膜中ではオリゴマーを作ることが電子顕微鏡や、原子間力顕微鏡によって観察されている。また、そのオリゴマーはラフトに局在すると生化学実験で示されている。しかしながらRhオリゴマーが光シグナル伝達に与える影響はまだよく理解されていない。さらに、シミュレーションレベルでは、RhオリゴマーはGtを活性化しやすいという報告があるものの、それを証明できた例はまだない。Rhはオリゴマーを形成することでさらに光シグナルを正に制御するのか、あるいは、シグナル伝達においてオリゴマーは影響与えないのか、について考慮していく。さらに、RhオリゴマーとGtとの相互作用は高速度原子間力顕微鏡を用いた観察を試みる予定である。なお、高速度原子間力顕微鏡の観察は大阪大学基礎工学研究科の山下隼人助教と共同研究で行う予定である。 また、前年度で、作成したシミュレーションモデルは単純な反応速度論的シミュレーションであった。このモデルではより詳しい分子のふるまいを再現することはできない。ゆえに、今年度はより分子のふるまいを正確に記述できるコースグレイン法などでシミュレーションしていく。
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