2018 Fiscal Year Annual Research Report
KOTO実験を利用したinvisible粒子の探索
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17J02178
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
清水 信宏 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | K中間子 / 中性子識別 / カロリメータ / ダークフォトン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,中性子を起源とする事象を削減するために,KOTO検出器に用いられているCsI電磁カロリメータのアップグレードを行った。中性ビームであるKLビームラインには,KLだけでなく,大量のγや中性子も含まれている。特に,このビームの中心から滲み出た中性子が,検出器の上流のコリメータなどで散乱されCsIカロリメータに入ると,本来欲しい信号のように振舞ってしまい,背景事象となる。実際,本研究の信号であるπ0→γA'はもちろん,KL→π0νν崩壊の無視できない背景事象となっている。 そこで,中性子とγを弁別するために,CsI結晶の前面に,MPPC (Multi pixel photon counter)という光検出器を取り付けることにした。従来は,結晶の背面に取り付けられたPMT(photo multiplier tube)を用いてシンチレーション光を検出していたが,MPPCを新たに前面につけることにより,両者が観測した時間の差ΔT=T_MPPC-T_PMTから,発光点の深さを知ることができる。γはCsI結晶の浅い部分で、エネルギーを落とすのに対し,中性子は結晶の内部で一様に反応することが知られているから,ΔTの値を用いて中性子とγの弁別が可能となる。 安定に,均質な品質を保ちながら接着するために,特別な冶具を設計した。接着剤が硬化している間に不用意な振動が加わっても,適切に押し付けが保たれるよう,バネで圧をかけるなどの工夫を行っている。 冶具のデザイン,品質保証の手順など,事前の準備を入念に確立していたことや,システマティックな作業工程を維持できたことが幸いし,約五人という少人数で作業を続けたのにも関わらず,一か月半ほどで,4080個のMPPCの接着を大きなミスなく無事に成功させることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MPPCの接着作業と並行して,宇宙線を用いた時間差ΔTの測定の確認も行った。CsI結晶の上下に,プラスチックシンチレータを設置することで,宇宙線のトラッキングを行う。エネルギーが落ちた場所の深さと,測定されるΔTのプロファイルを事前に測定することで,今回のアップグレードの機能性を確認するだけでなく、結晶ごとの,光量や波形といった個性をデータベース化することができた。 この,宇宙線測定で得られたデータベースをもとにして,モンテカルロ (MC)を用いた検出器応答のシミュレーションを行った。シミュレーションによって、粒子がCsIカロリメータの内部でエネルギーを落とした場所や大きさを,時々刻々,計算することができる。このミクロな情報をもとに,伝搬時間を考慮して波形として重ね合わせ,実際に観測される時間を計算する。この研究によってγの効率90%を維持しつつ,中性子の寄与を3%まで削減できることがわかった。2019年2月,実際のビームを用いたデータ取得を開始した。中性子のサンプルは,KLビームラインの上流に3㎜のアルミニウムを置くことで,中性子を意図的に散乱させて取得した。MCシミュレーションは良く実験を再現していることが確認されている。 新しい検出器をインストールした直後にもかかわらず、前もってシミュレーションのソフトウェアを開発できていたことが幸いし、データの取得後のフィードバックをスムーズに行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、ビームのデータを取得中であるため、MPPCの読み出しに対して、荒いキャリブレーションを適用している。中性子/γの識別のパフォーマンスをより高めるために、より精度の高いキャリブレーションの手法がないか研究する。 また、これまで、中性子背景事象の削減のために、クラスターの形をニューラルネットワークで判定する手法が使われてきた。電磁シャワーがカロリメータの中で二次元に発展していく様子から、中性子背景事象を数%程度にまで削減することができる。今回開発した,ΔTによる選別と従来の手法の相関によって、削減能力が低下しないか、今後、検証を行っていく予定である。 最後に、ΔTの分布は、荷電粒子の選別にも用いることができる可能性がある。電離損失によって、エネルギーを落としながら、CsIの中を深く貫通していくπ+やμ+などの粒子は、ΔTに対して特徴的な分布となる。荷電粒子を伴う背景事象を削減したり、新たな新物理探索ができる可能性がないか、今後検討していきたい。
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