2018 Fiscal Year Annual Research Report
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17J02185
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
酒井 勝太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 行列模型 / カイラルゲージ理論 / 正則化 / ドメインウォールフェルミオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、時空・重力の量子論を物質の量子論と統合するために行列模型を解析することである。そして可能であれば、それが実現できるような新型行列模型を構成することを目指す。 当該年度は様々な行列模型を俯瞰的に観察し、目的達成に向けた知見を得た。特に具体的に研究したのは、IIB行列模型と呼ばれる模型である。これが時空・重力と物質を統合する理論の最有力候補であることを再度認識したため、現行の物質理論体系である場の理論とIIB行列模型を接続することを試みた。IIB行列模型に関する諸研究では最近、カイラルゲージ理論が自然に出現するという報告がなされた。これは、カイラルフェルミオンと呼ばれる種の物質が行列模型を通じてゲージ不変に正則化されることを示唆する。紫外発散の問題を除けば同じ物理を場の理論の枠内で記述することは可能であるはずである。したがって法外年度の研究として、カイラルゲージ理論のゲージ不変な正則化を模索した。 素朴に従来の場の理論としてカイラルゲージ理論を正則化することはできないと知られる。そこで本研究では、格子場の理論で知られるドメインウォールフェルミオンと呼ばれる構成を連続理論に適用することで正則化を試みた。これは時空に余剰次元を追加し、その方向に質量項が位相欠陥を持つようなフェルミオンを考えるという手法である。紫外発散のうち、フェルミオンループからくるものはパウリ・フィラーズ正則化で正則化した。一方でゲージ場が関与する紫外発散は、ゲージ場のみに次元正則化を適用することで正則化した。その結果1ループでゲージ不変性を保つ正則化を構成できたが、得られた理論は大変に複雑なものになった。このことから、IIB行列模型と場の理論との接続を定式化するにあたっては非自明な構造を導入せねばならないと判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始時点においては、行列模型からどのように時空が創発するのか、またどのような行列模型を考えればよいのかが不明であった。当初の計画では、二年目には様々な行列模型を解析し、行列模型から時空が創発するという描像がどの程度一般的に機能するのか調べることになっていた。 しかし実際の当該年度においては、そのような描像がうまくいき得る模型がIIB行列模型とその僅かな変形に限られるという知見を得ることができた。非常に規模の大きな観察であるため論文執筆は現在も検討段階に留まっているものの、このことは研究方針に大きな、そして適切な方向性の影響を与えた。 さらに、現在進行中の取組によって、従来考えられていなかった宇宙の新しい描像が、IIB行列模型から得られることが判明しつつある。これらを総合すると、本研究は時空・重力の量子論と物質の量子論を行列模型の枠内で統一するという、その目的に確実に近づいていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
IIB行列模型の解析に重点を置く。ここまでの研究において、IIB行列模型から超弦理論の高エネルギー極限の物理が取り出せる可能性、そして同模型には重力を一般化した高スピン場が自由度として含まれている可能性が示唆されている。そこで今後はもともとの計画を修正する。行列模型が表す時空の描像とその上の物質の振舞をさらに正確に知るべく、その数理構造に焦点を当てて研究を進める。最終的に、拡張された時空の概念の下で現実的な場の理論と一般相対性理論を導くような行列模型を構成あるいは定式化する。可能であればさらに踏み込んで、宇宙項などの諸観測量を説明することを目指す。
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