2017 Fiscal Year Annual Research Report
気候科学の知識生産とメディア報道の政治作用:IPCCを事例とした日英比較研究
Project/Area Number |
17J02207
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
朝山 慎一郎 早稲田大学, 政治経済学術院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 気候変動 / 科学的助言 / IPCC / 政策における科学 / 合意形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、気候変動の政策決定で政治的な秩序形成に大きな影響力を持つ専門家の科学的助言の社会的な作用について、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」を事例に、異なる社会背景における気候変動の科学的助言の政治作用の違いを明らかにし、新たな科学的助言モデルの提示のための課題を抽出することを目的とする。
初年度は、主にIPCCに関連する文献調査および気候変動の科学と政策の相互作用に関する科学技術社会論分野の既存文献レビューを通じて、気候変動の科学と政策の複雑な関係性を明らかにすると同時に、コンセンサスモデルに基づいた現在のIPCCの科学的助言が抱える利点と課題を明らかにした。例えば、科学と政策の関係は科学的助言という制度化されたプロセスのみならず、科学者個人による科学コミュニケーションを含めた幅広い活動として理解することができ、両者を明確に区分することは現実的に難しい。とりわけ価値観の対立を伴う気候変動のような課題では、科学者は客観的な立場に徹するよりも、規範的な議論に踏み込みながら政治論争をうまく操縦することが重要になる。これらの成果については、和文学術雑誌(社会技術研究論文集)の査読付き論文(朝山他(2017)「気候論争における反省的アドボカシーに向けて:錯綜する科学と政策の境界」)として公表した。また、日本の一般市民を対象としたフォーカスグループ調査では、IPCCの科学コンセンサスが一般市民の間でどのように受容されているのかを明らかにした。具体的には、IPCCが科学的根拠を提供し、パリ協定の長期目標として組み込まれた「2°目標」をめぐっては相反する異なる視点が併存し、IPCCの科学コンセンサスだけでは幅広い社会的合意形成には不十分である結果が示された。これらの結果は国際学会の口頭発表として成果を公表し、現在査読付き学術論文を作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、日本と英国の二ヵ国を事例に、IPCCの第五次評価報告書(AR5)に関する知識生産とメディア報道を通じた社会受容のプロセスの比較分析を行い、次の3つの研究内容を実施することを当初の目的としている:(1)IPCC・AR5 に関連する報告書・政府資料などの文献調査、(2)日本・英国におけるIPCC・AR5 報道の分析(3)日本・英国におけるIPCC 研究者・報道関係者へのインタビュー調査。
初年度は主に研究実施項目(1)に従事し、IPCCに関連する文献調査および科学技術社会論分野の既存研究レビューを行い、論文発表につなげることができた。同時に研究実施項目(2)にも従事し、日本と英国におけるIPCC・AR5についてのメディア報道のデータ収集を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては、当初の研究計画の上述の研究実施項目(1)(2)を進展させ、本研究の主要な課題である、IPCCの科学的助言が日本と英国という異なる政治的な文脈においてどのように受容・利用されているのかをメディア報道の言説分析を通じて明らかにする。
一方で、研究実施項目(3)については、当初想定していた研究計画からIPCCをめぐる環境がめまぐるしく変わっており、遂行が困難な状況になっている。具体的には、IPCCではすでに新しい第六次評価報告書の作成準備が現在進行形で進んでおり、さらにはパリ協定を踏まえた1.5℃目標に関する特別報告書が2018年中に公表される予定になっている。このようにIPCCをめぐる状況は過去のAR5作成時から大きく変化しており、当時の報告書作成に関わった科学者のインタビュー調査は、本研究の目的に照らして必ずしも重要な項目ではなくなってきている。
そこで、今後の研究方策としては、上述のIPCCをめぐる環境変化にあわせて、パリ協定の下での新しい政治環境下におけるIPCCの新たな役割についての理論的な検討を行うとともに、科学的コンセンサスが政策的な議論形成全般において果たす役割と課題についての批判的な考察を進めることにする。特に、IPCCの新たな役割について考察する上で、現在IPCCの科学アセスメントで特に重要な課題となっている気候工学(ジオエンジニアリング)の扱い方、フレーミングに着目し、気候工学をめぐる科学と政治の関係についての検討を進める。
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[Journal Article] Making sense of climate engineering: A focus group study of lay publics in four countries2017
Author(s)
Wibeck, V., Hansson, A., Anshelm, J., Asayama, S., Dilling, L., Feetham, P. M., Ishii, A., & Sugiyama, M.
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Journal Title
Climatic Change
Volume: 145(1-2)
Pages: 1-14
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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