2017 Fiscal Year Annual Research Report
流体物理洗浄における付着粒子のはく離メカニズムに関する数値シミュレーション
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17J02211
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
近藤 智貴 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 流体物理洗浄 / 高速液滴衝突 / 粒子はく離 / 粒子付着力 / 壁面せん断流 / 直接数値解析 / 粒子レイノルズ数 / 滑り壁モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の研究計画に従い,初年度はまず半導体シリコンウェーハの洗浄工程のうちジェット(高速の液滴群からなる)を利用した毎葉洗浄手法に着目した.そして本手法における粒子はく離メカニズムを物理的に明らかにするため,ジェット洗浄の簡略化モデルとして単一球形液滴の高速壁面衝突に関する数値シミュレーションを行った.結果として高速液滴衝突に付随するせん断流形成の規模を定量的に評価することができ,粒子はく離が十分に生じることを流体力と粒子付着力の比較から力学的に明らかにした.本成果の一部は国際学会である米国物理学会流体力学部門(APS-DFD2017)にて口頭発表を行った.また現在国際学術誌への投稿準備中である. 本年度の後半は米国ミシガン大学に訪問研究員として滞在し,本研究遂行のための高度な数値シミュレーション手法の習得および,大規模な直接数値解析を実行した.帰国後も研究における協調関係は維持されており,現在までの成果の一部に今後期待される成果を加えたものを国際共著論文として投稿する見込みである. 本研究は過去に例のない数値シミュレーション(圧縮性・粘性・壁面滑りモデルを考慮した液滴衝突)を達成したことから,学術的ならびに産業的価値の高い成果が得られる見込みである.本研究が完成した際にはこれまで経験的に構築されてきた物理洗浄手法を,力学的裏付けのある粒子除去効率によって体系化することに対し重要な貢献を果たすことが期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在,本研究は年次計画以上の研究内容を達成している.第一の解析対象である高速液滴衝突を正確に再現するため,物理モデル・数値モデルの構築を完遂した.そしてシミュレーションの実行により本研究で明らかにすることを目指した知見を得ることに成功した. 物理モデルについて説明する.この解析対象は慣性・圧縮性が支配的であり,加えて壁面近傍にて限定的に生じる粘性の影響が重要のため,支配方程式は圧縮性ナビエ・ストークス方程式の多相流モデルを採用した.現象は軸対称性が保たれることから,支配方程式に幾何学的ソース項を加え,2次元軸対称座標系の計算領域を定義した.初期条件として,壁面の濡れを考慮するため液膜で覆われた壁面および液膜の存在しない乾燥壁面の2通りのシミュレーションを行った.ここで,濡れ壁面の場合は壁面の境界条件は滑りなし条件を満たすが,乾燥壁面の際には壁面上にて3相不連続界面(固体壁・水滴・空気)の移動が発生するため滑りを考慮する必要がある.そこで本研究では,分子動力学的に妥当性が確認されている滑りモデルを適用することでシミュレーションの物理的妥当性を満たした. 数値モデルについて説明する.本現象は気液界面の高速な移流および衝撃波伝ぱを伴うため,保存性に優れた衝撃波・界面捕獲法を採用した.すなわちWENO法に基づく有限体積法を採用した. シミュレーション結果を説明する.液滴衝突に付随するサイドジェットおよびミルククラウン状に広がる高速な流れは壁面近傍に高勾配のせん断流を形成することが明らかとなった.次に,このせん断流が壁面付着粒子に与える力(表面応力による回転トルクが支配的)と付着力(ファンデルワールス力)との比較から,粒子はく離が生じるしきい値を求めた.その結果,単一液滴の衝突による粒子はく離は,粒子径が10 nmを上回るときに液滴初期径の投影面積内部で発生することが力学的に確認された.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進も当初の予定通りに遂行される見込みである.現在は本研究課題後半にあたる,超音波洗浄プロセスにおける気泡振動による壁面せん断流形成と粒子はく離を解明するための数値シミュレーションに着手している.物理モデル・数値モデルは液滴衝突のシミュレーションと同様に構築可能だが,気泡崩壊は界面の大変形と温度上昇を伴うため,より高精度な界面捕獲法の適用および熱流束の考慮が重要になる.見込みとして,壁面近傍の気泡は壁面方向へマイクロジェットを形成しつつ崩壊するため,液滴衝突同様にせん断流の形成が洗浄メカニズムにとって支配的な要因になることが考えられる.また,気泡崩壊がもたらす衝撃波の誘起流に起因するせん断流の発生も見込まれる.液滴径や周囲圧力,壁面気泡間距離等をパラメータとし,マイクロジェット速度や衝撃波誘起流を定量的に評価することで洗浄への寄与を考察する.
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