2017 Fiscal Year Annual Research Report
シリアンハムスターにおける低温ショックタンパク質の冬眠特異的遺伝子発現
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17J02251
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
堀井 有希 岐阜大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 冬眠特異的遺伝子発現機構 / スプライシング調節 / 低体温耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、冬眠する動物の低体温耐性メカニズムについて明らかにすることを最終的な目標としている。これまで、冬眠動物であるシリアンハムスターにおいてCold-inducible RNA-binding protein(CIRP)の冬眠時特異的なスプライシング調節の存在と、その要因を明らかにしてきた。本研究の目的は、CIRPのスプライシング調節によって、冬眠時にどのような機能を発揮するのかを解明することと、解明したCIRPの機能(冬眠時の低温耐性への寄与を予想)を冬眠しない動物に応用することである。 まず、CIRP タンパク質及び関連する細胞内伝達系の解析を行なった。現在までの結果として、細胞の保護や増殖に関与する細胞内シグナル伝達系の重要な因子であるAktのリン酸化について、平常時と比較して、冬眠時に減少することが明らかとなった。この結果は、CIRPが冬眠時にどのような機能を発揮するのかを解明するために重要なステップとなった。 また、CIRPが冬眠様のスプライシング変化を起こす時点での心臓に発生する異常について解析を行なった。強制的な低体温時には異常心電図が観察されるが、人為的にCIRPのスプライシングを変化させた状態での低体温時には、冬眠時と同様に異常心電図の発生がないことが明らかとなった。これらの結果は、CIRPによる低温耐性が期待される結果である。 次に、非冬眠動物における冬眠様 CIRPmRNA 発現の誘導法を確立した。非冬眠動物であるマウスを人為的な低体温へ誘導したところ、シリアンハムスターと同様の温度域でCIRPのスプライシング調節が引き起こされることが明らかとなった。また、ラットにおいても同じようなスプライシング調節の存在が示唆された。この結果は、冬眠動物におけるCIRPの機能を冬眠しない動物に応用できる可能性を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、病理組織学的手法を用いて、低体温による組織障害と、CIRP及びCIRPのスプライシングバリアント発現の局在の関連を評価する予定であった。そのため、免疫染色法及びin situハイブリダイゼーションを行うため、CIRPとCIRPのスプライシングバリアントに特異的な抗体及びプローブを作成する必要があった。しかし、冬眠動物を用いた実験では抗体作成に時間がかかると考え、一般的な実験動物であるマウスやラットを用いることとした。そのため、まずはマウスやラットにおける冬眠様 CIRPmRNA 発現の誘導法の確立するための実験を行なった。実験の結果、非冬眠動物であるマウスやラットにおいても、冬眠動物に類似したスプライシング調節を人為的に引き起こすことができた。今後はCIRPのスプライシング調節による低体温耐性について、マウスやラットの個体または細胞を用いて実験を計画していく予定である。また、ハムスターを用いて、低体温による組織障害と、CIRPのスプライシングバリアント発現の関連を評価するため、病理組織学的解析に代わり、心電図により評価した。この方法においても、CIRPによる低温耐性が期待される結果が得られている。 CIRPタンパク質と、スプライシングバリアントから翻訳されるタンパク質の発現量を、平常時と冬眠時で比較するため、ウェスタンブロッティング法での解析を行なった。しかし、現時点ではスプライシングバリアントがコードすると予想されるタンパク質を検出することはできていない。そのため、新規の抗体の作成に着手すると共に、スプライシングバリアントはタンパク質に翻訳されておらずpre-mRNAとして存在する可能性を考え、より厳密なRNA解析実験を行う予定である。 このように、当初の計画通りではないものの、最終的な目標に対しては、研究は着実に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には非冬眠動物における冬眠様CIRP調節時の細胞内伝達系、形態、機能の解析を行う。また、これまではRNAの定量的な解析を行っていなかったため、より詳細に発現量を評価するため、リアルタイムRT-PCRの実験系を立ち上げた。今後、CIRPタンパク質の定量については、ウェスタンブロッティング法およびリアルタイムRT-PCRを用いて詳細な定量的解析を行なっていく予定である。また、現在までの実験によって、スプライシングバリアントがコードすると予想されるタンパク質をウェスタンブロッティング法によって検出することはできなかった。よって、来年度は、新規の抗体を作成し、ウェスタンブロッティング法での条件検討を行う予定である。また、スプライシングバリアントはタンパク質に翻訳されておらずpre-mRNAとして存在する可能性があるため、新たな実験系により検証を行う予定である。現在までに、細胞核にはpre-mRNAが優先的に存在し、翻訳されるmRNAは細胞核にも細胞質にも存在すると考えられるため、細胞核と細胞質を分離し、RNAを抽出する実験系を立ち上げた。今後は、この実験系を利用して、pre-mRNAの可能性を検証していく。 また、スプライシングバリアント由来のタンパク質の強制発現系細胞を作成し、低温耐性が付与されるかどうか検討する。さらに、ハムスター及び非冬眠動物において、低体温状態の心臓機能解析を行う。 研究結果の公表のため、日本獣医学会学術集会における口頭発表を行う。また、これまでの結果を論文にまとめる計画である。
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Research Products
(3 results)