2018 Fiscal Year Annual Research Report
シリアンハムスターにおける低温ショックタンパク質の冬眠特異的遺伝子発現
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17J02251
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
堀井 有希 岐阜大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | CIRP / 選択的スプライシング / 低体温療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬眠する哺乳動物は低体温時にも生命活動を維持することができる。冬眠動物のもつ低体温耐性メカニズムを解明し、ヒトを含めた非冬眠動物に適用することができれば、低体温のメリットを医療応用できると期待される。これまで、冬眠動物であるハムスターを用いた実験により、Cold-inducible RNA-binding protein(CIRP)において、平常時と冬眠時にはCIRPの選択的スプライシングのパターンが変化していることが明らかとなった。この選択的スプライシングにより冬眠時に効率よくCIRPタンパク質が機能していると示唆される。CIRPには細胞のアポトーシスを抑制する作用があることから、冬眠動物のもつ低体温耐性にCIRPが重要な役割を果たす可能性がある。本研究の目的は、CIRP遺伝子のスプライシング発現調節機構および機能を明らかにすることと、CIRPによる機能を非冬眠動物に応用することである。研究2年目にあたる平成30年度においては、シリアンハムスターにおいて冬眠時のCIRPの選択的スプライシングの変化を引き起こす要因について明らかにし、その結果について詳細な解析を行った。また、非冬眠動物であるマウス及びラットにおいても、人為的にマイルドな低体温に誘導することによって冬眠様の選択的スプライシングが再現することに成功した。一方、急激に冷却すると、CIRPの選択的スプライシングは冬眠様に変化しないままであった。CIRPが冬眠様の発現様式であることによって低温耐性機能が発揮されるとすれば、今後低温への誘導方法を検討することにより非冬眠動物であるマウスやラットにおいても低温での障害を回避することができる可能性がある。今後、選択的スプライシングの調節によるCIRPの機能を明らかにすることにより、臓器の低温保存、低体温療法及び感染症の治療へ応用できる重要な結果となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成30年度にはCIRPタンパク質及びスプライシングバリアントコードするタンパク質について解析を行う予定であった。そのために、ウェスタンブロッティング法によりタンパク質の検出を試みたものの、スプライシングバリアントのコードするタンパク質の検出には至っていない。そこで、スプライシングバリアントがmRNAであるのか詳細に検討するため、これまでのRT-PCR法を見直し、mRNA特異的に検出できるようにオリゴdTプライマーを用いた解析を行った。結果として、オリゴdTプライマーを使った場合にもスプライシングバリアントを検出することができたため、スプライシングバリアントはmRNAとして存在していると確認することができた。 また、非冬眠動物であるマウス及びラットにおいても冬眠様のCIRPの選択的スプライシングを再現する条件についても詳細に検討した。RT-PCR法によって、マウス及びラットにおいてもハムスターと類似したサイズのスプライシングバリアントが検出された。そこで、ダイレクトシークエンスによってマウスにおけるcDNA配列を解析した。スプライシングバリアントの構造は、ハムスターのものと類似していたため、ハムスターと同様にマウスにおいてもCIRPの選択的スプライシングの変化によって低温時にCIRPの機能が発揮されている可能性が示唆された。 当初の予定通りではないものの、選択的スプライシングの調節によるCIRPの発現機構と機能を明らかにするという研究の目的に対しては、研究は進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、CIRPの選択的スプライシング調節によりもたらされるタンパク質発現の変化について解析する。しかし、これまで、CIRPのスプライシングバリアントのコードするタンパク質についてはまだ検出ができていない。そのため、今年度は、選択的スプライシングの調節によってCIRPのタンパク質自体に量的な変化があることを予想し、CIRPタンパク質をターゲットにウェスタンブロッティング法を行い、より詳細に定量的解析を行うこととする。 昨年度の結果として、非冬眠動物であるマウスやラットについてもシリアンハムスターと同様の冬眠様の選択的スプライシング調節が再現できることを明らかとした。このことから、非冬眠動物にもCIRPの低温耐性機能が潜在的に存在する可能性がある。そこでCIRPの選択的スプラシング調節のもたらす機能についてマウスの細胞を用いた実験を行う。選択的スプライシングの調節を再現し、冬眠様の発現様式の細胞と、平常時の発現様式の細胞では、低温ストレスでの培養により細胞の生存率に違いがあるかどうかを解析する。 また、非冬眠動物における低体温時の致命的な現象として、心臓機能の障害が挙げられる。冬眠動物では、CIRPの選択的スプライシングの変化によって低体温時の心臓機能が障害から保護されている可能性があると考えた。そこで、人為的にCIRPの選択的スプライシングを調節した場合の、ハムスター及び非冬眠動物における心臓機能を解析し、違いがあるのかどうか明らかにする。心臓の組織を利用し、収縮に関与するチャネルのmRNA、タンパク質の解析を行う。 研究結果公表のため、日本獣医学会学術集会にて発表を行う。また、英語論文として発表する。
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Research Products
(3 results)