2017 Fiscal Year Annual Research Report
行動科学・神経科学・計算論の融合的アプローチによる身体運動の統一理論モデルの構築
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17J02601
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
林 拓志 東京農工大学, 大学院工学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 身体運動制御 / 身体運動学習 / 腕到達運動 / 評価関数 / 運動時間 / 運動速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
カップに手を伸ばすときなど、ヒトは運動距離があらかじめ決まっていても、どのくらいのスピード(運動速度)で、どのくらいの時間(運動時間)動かすか、は決まっていない場合がある。つまり、運動距離が決定していたとしても、どのような運動を実行するかは一意に定まらない冗長な問題である。従来の研究では、脳はエネルギーや報酬を最適にする動作を選択していると示されている。しかし、一定の運動距離において、一方(e.g., 運動速度)が決まれば、他方(e.g., 運動速度)が決まるため、脳がどちらを決定しているかは明らかではない。そこで、本研究では、運動学習課題を利用し、脳が運動速度と運動時間のどちらを決定しているのか明らかにする。 被験者はマニピュランダムを握り、手の位置を反映した画面上のカーソルを、画面上のターゲットまで動かす腕到達運動課題を対象に実験を行った。この時、運動中のカーソル位置は表示せず、最終地点のみを表示させることで、被験者は最終位置を適切にターゲットに合わせることを目指す。 画面上のターゲットの距離を7cm, 10cm, 13cmに設定すると、被験者は運動速度および運動時間を変化させることが明らかとなった。続けて、ターゲットの距離を10cmに固定したまま、カーソルの表示位置を徐々に変化するカーソルシフト外乱に適応させた。カーソルが実際の位置より3cm 遠くに表示されるように変換を加えた場合、運動距離を7cmにしなければならない。カーソルが実際の位置より3cm 近くに表示されるように変換を加えた場合、運動距離を13cmにしなければならない。 運動適応の結果、運動速度は運動距離と同じように変化しているのに対して、運動時間は常に一定であることが明らかとなった。これらの結果から、運動速度と運動時間の両者のうち、運動速度は適応変化しやすく、運動時間は適応変化しにくいことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
この一年間、非常に積極的に研究に取り組み、その結果を北米神経科学学会、モーターコントロール研究会などの国内外の学会で発表するなど着実に成果を挙げることができた。特に国際学会であるAdvances in Motor Control and Motor Learning (MLMC)において、非常に厳しい採択率の中で(<20%)で採択され、口頭発表の機会を得た。 また、新たな研究室に異動した直後から、本研究室で確立された腕到達運動課題を用いて、新たな実験系を開発した。それは、ターゲットに向かって運動を行う運動制御課題と、同様の状況を運動学習課題で作り出し、両者を比較するというものであった。この実験系を用いれば、運動制御と運動学習において、脳は共通の最適化規準を持つか検討することが可能であった。 非常に興味深いことに、両者は全く異なる評価関数を採用していることが示唆されている。本研究結果は、当初考えていた結果とは大幅に異なるものの、従来の研究では全く示されてこなかった、新たな心理物理学的側面を提示している。この成果は、身体運動制御と学習における脳内処理機構を明らかにする可能性があり、身体運動関連分野に高いインパクトを及ぼすものと期待できる。来年度に向けて、行動実験と数理モデリングの統合的なアプローチを用いて、さらなる検証を試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本研究結果である運動制御と運動学習が異なる評価関数を最適化しているという点を確固たるものにするため、統制実験を含め行動実験を行っていく。また、脳がいかなる評価関数を保持しているかを明らかにするために運動学習の評価関数を示すことを目標とする。 両者を達成することができれば、国内外の学会・研究会で報告をし、英文学術誌に投稿することを目標とする。
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Research Products
(9 results)