2017 Fiscal Year Annual Research Report
海底測地観測の高精度化を通した東北沖地震に伴う余効変動プロセスの解明
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17J02652
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
富田 史章 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 2011年東北沖地震 / GPS音響結合方式 / 海底地殻変動観測 / 測地インバージョン / 粘弾性緩和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,(1)GPS音響結合方式による海底地殻変動観測(以後,GPS-A観測)データ解析の高精度化を図ることで,2011年東北地方太平洋沖地震(以後,東北沖地震)後の詳細な海底地殻変動場を明らかにし,(2)(1)の結果を用いて東北沖地震に伴う地震後地殻変動(余効変動)のモデル化を行う,ことで構成される. (1)GPS-A観測データの解析では,Kido [2007] の手法を元に海中音速の傾斜構造を取り入れ,傾斜パラメータと海底局位置(海底での変位)の同時推定を試みた.海中音速傾斜場の推定には,衛星測位における対流圏遅延勾配の推定 [e.g., MacMillian, 1995] を参考に改めて定式化を行った.しかし,海底局位置と傾斜パラメータ間のトレードオフが顕著であり,Kido [2007] の提案する単一音響測距ごとでの精密測位は困難であることがわかった.今後,この対策を検討する必要がある. (2)東北沖地震に伴う余効変動のモデル化では,従来手法によるGPS-A観測成果を用いて予察的な解析を実施した.GPS-A観測成果と,余効変動要因の一つである粘弾性緩和に関する先行研究のモデル [Sun et al., 2014] を比較したところ,粘弾性緩和モデルに与える地震時すべり分布モデルの不確定性が余効変動のモデル化に与える影響が大きいことがわかった.そこで,粘弾性緩和の影響をグリーン関数として取り入れること(粘弾性グリーン関数)で,地震時すべり分布と地震後すべり分布の同時推定を行った.その結果,東北沖地震後の海底地殻変動データを加えることで,地震時・地震後ともにこれまでより高空間分解能でのすべり分布を得ることに成功した.このことは,例え地震が発生した後であっても,海底地殻変動観測などの観測網を充実させることで,地震後の観測から地震時の変動を拘束できることを示している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では,初年度に(1)GPS-A観測の測位精度向上を図ることによる東北沖地震後の詳細な海底地殻変動場の把握.を行う見込みであり,(2)東北沖地震に伴う余効変動のモデル化,は次年度に行う見込みであった.しかし,GPS-A観測の高精度化に当たって解決の難しい問題に直面したため,次年度に計画していた余効変動モデリング手法の開発を前倒しで実施し,こちらでは期待以上の成果を上げた.これらの2点の進捗状況を踏まえて,総合的に「おおむね順調に進展している」と判断した. (1)GPS-A観測の測位精度向上では,衛星測位で用いられる対流圏遅延勾配がGPS-A測位における海中音速場の変化に相当することに着目し,従来の定式化(Kido [2007])から発展させることに成功したものの,研究概要で示したように海底での変位と海中音速の傾斜パラメータのトレードオフ関係が顕著であり,高精度化には至っていない.そのため,この点では計画からやや遅れてしまっている. 一方で,(2)では粘弾性グリーン関数を導入することで,地震後の詳細な地殻変動観測データが,地震後の地殻変動のモデル化のみならず,地震時の断層すべりをモデル化にも極めて有用であることを示した.地震後の測地データから地震時の断層すべりをモデル化する試みは殆ど行われておらず,かつ地震後の測地データを用いることで地震時すべり分布が改善されるかは明らかになっていなかった.本研究では,粘弾性グリーン関数と広域のGPS-A観測成果を用いることで,地震時・地震後すべり分布の空間解像度が劇的に向上することを確かめることができた.研究計画では余効変動のモデル化のみに着目していたが,この取り組みによって,余効変動のみならず地震時変動を含めたより統合的な地震サイクルモデルを考えることが可能となった.この点については,計画時の期待以上の成果を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は,まず本年度では解決に至らなかったGPS-A解析の高精度化における傾斜パラメータと海底局位置のトレードオフの解決を図る.海中音速の傾斜構造の仮定が正しければ,原理的には傾斜パラメータと海底局位置は分離可能である.そのため,各パラメータの拘束条件の導入や,カルマンフィルターなどのノイズも含めた解析を行うことで,この解決に取り組む.一方で,本年度で成果を残した余効変動モデリングについても改良を行う.本年度の成果では地震時・地震後断層すべり分布の空間分解能の向上に成功したが,今回構築した余効変動モデルでは地震後断層すべりの詳細な時間発展を取り入れていない.そのため,時間発展の推定を実装することで,余効変動の時間発展についても議論していく方針である.なお,余効変動モデリングについては,解析の大局的な枠組みは本年度で構築済みのため,海底地殻変動の測位解析の高精度化が達成された際に,その結果をすぐに取り入れることが可能である.
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Research Products
(9 results)