2018 Fiscal Year Annual Research Report
QED効果を考慮した高精度電子状態理論の開発-新規素粒子理論構築を目指して-
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17J02767
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
砂賀 彩光 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 相対論的量子化学 / CP対称性の破れ / QED効果 / 理論化学 / ディラック方程式 / 電子EDM / beyond standard model / 原子・分子物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子の電気双極子モーメント(電子EDM)、スカラー-擬スカラー(S-PS)相互作用はCharge-Parity(CP)対称性の破れに起因する物理現象である。これらを発見することは素粒子標準模型を超えた物理理論を構築するために重要であるが、現在は、上限値が得られているのみである。電子EDM及びS-PS相互作用定数を決定するためには、常磁性系の物性値である有効電場(Eeff), S-PS係数(Ws)を高精度に求める必要がある。本研究課題では、(1)量子電磁気学(QED)の効果を考慮してEeff, Wsを計算する手法を開発し、(2)電子EDM、S-PS相互作用を発見するための実験に適する分子を提案することを目的とした。該当年度では、(1)QED効果の1つである真空偏極効果を考慮するためのプログラムを開発し、(2)ではEeffの解析、及び実験対象分子の提案を行った。 (1) 真空偏極効果を考慮するためUehlingの有効ポテンシャルを実装した。開発したプログラムの計算値と原子の数値計算の計算値と比較することで、正しく実装されていることを確認した。計算を行う際に分子の対称性を導入することで、分子系の計算時間を短縮することに成功した。 (2-1) 2族フッ化物と比べて12族フッ化物が大きなEeff, Wsを持つ理由を、d電子の不完全な遮蔽効果に起因する外殻軌道の収縮から説明した。 (2-2) Hg-アルカリ分子を用いた光格子実験を提案しこの実験における電子EDMの測定誤差が、既存の実験対象分子と比べて、測定誤差が1桁程度小さくなることを示した。 (2-3) ハロゲン化ラジウム及び11族-Ra分子が、フッ化ラジウムと比べて大きなEeff, Wsを持つことを示した。その理由を、前者においてRa原子のs-p混成が大きくなることから説明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究では、真空偏極効果を考慮した擬ポテンシャルは開発されていたが、この手法では、内殻軌道が寄与する分子物性を計算できないという問題点があった。本研究で開発したプログラムによって、真空偏極効果を考慮した分子物性の全電子計算が可能になった。該当年度では、Dirac-Hartree-Fock法を用いた原子及び2原子分子のテスト計算を行い、プログラムが正常に作動することを確認した。 電子EDM探索実験の実験対象分子は、フッ化物を主とした重原子-軽原子の組み合わせが多かった。重原子-重原子分子がフッ化物よりをEeff, Wsを持つことを示した研究は本研究が世界初であり、電子EDM探索実験への応用が期待される。 近年、基礎物理探索への応用を目指した超冷却分子の研究が盛んにおこなわれている。超冷却可能なHg-アルカリ分子の電子EDM探索実験への提案は、該当分野の実験を牽引する理論計算であるといえる。 該当年度までで、(1)d電子の不完全な遮蔽効果による外殻軌道の収縮、(2)重原子の原子軌道のs-p混成の増加が、Eeff, Wsを増幅させることが分かった。本研究で対象とした分子に限らず、今後実験対象分子を提案する際の基盤ともなる理論解析を行うことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の目的(2)については、十分な結果が得られたため、次年度では主に(1)について取り組む。QED効果の1つである自己エネルギー効果を考慮した相対論法を開発する。自己エネルギー効果を考慮するために、Flambaum, Gingesにより導出された有効ポテンシャルを、プログラムDIRACに実装する。開発したQED計算プログラムと、既存の相対論的結合クラスター法のプログラムを結合することで、QED効果を考慮した相対論的電子相関法を確立する。開発したプログラムの精度検証のため、2原子分子の核間距離および分光定数を計算し、先行研究の計算値と比較する。ThO, YbF, HfF+分子等、実験対象分子のEeff, Wsを計算する。重原子分子の電子波動関数計算の分野では、次年度に開発する手法が世界最高精度の手法となる予定である。
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