2017 Fiscal Year Annual Research Report
海底火山体において繰り返し発生する津波地震の物理メカニズム解明
Project/Area Number |
17J02919
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三反畑 修 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 津波 / 地震 / 津波地震 / 火山性地震 / 海底火山 / カルデラ / 地殻変動 / 波線追跡 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本南方沖の鳥島近海やニュージーランド北方沖のケルマディック諸島近海で繰り返し発生し,地震規模から想定されるよりも大きな津波を引き起こす「火山性津波地震」の発生物理メカニズムの解明を目的として,津波地震に伴う地殻変動を津波解析に基づき調べた. 1.修士研究の成果を国内学会で発表し,結果は国際誌Pure and Applied Geophysics,国内学会JpGU2017年大会で発表した.本研究では,分散性を考慮した津波波線追跡手法を開発,既存の津波初期波高の推定手法の問題点を指摘・改良した.鳥島近海地震が海底火山付近で少なくとも50 cmの隆起現象を引き起こしたことを指摘した. 2.2015年鳥島近海地震に伴う津波に対し,実際の海底地形データ上を用いた差分計算結果と海底水圧計での観測津波波形と比較し,地震に伴う地殻変動を調べた.その結果,海底カルデラ内に集中した1.0 m以上の隆起および,それを取り囲む0.1 m程度の沈降からなる地殻変動が起きていたことを明らかにした.これらの津波解析結果に基づき,地下浅部での水平クラック開口現象が,地震波をほとんど励起せずにカルデラ内に集中した大きな地殻変動を引き起こしたことを提案した.結果は,国際誌Science Advancesほか,国際学会AOGS,AGU等で発表した. 3.2017年12月にケルマディック諸島近海で鳥島近海地震に類する地震が発生し,ニュージーランドの潮位計で津波が観測された.2017年に加え,2009年2月に発生した類似の地震に伴い観測された津波を確認・収集した.差分法を用いた津波伝播計算結果と観測の比較によって,鳥島地震と同様に,海底カルデラの特徴を持つ火山体浅部において1 m程度の海水面隆起現象が発生していたことを示した.結果は2018年のJpGU大会で発表予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鳥島近海地震に関して,2本の論文が国際誌に掲載された.修士研究で開発した分散性の津波波線追跡手法と,既存の津波伝播の差分計算手法を用いて研究を進め,2015年5月の鳥島近海地震の際に観測された深海底水圧計の津波記録と数値計算を比較することで,地震に伴う海水面変動を推定し,観測波形の高精度の再現に成功した.これによって,地震波のみでは全貌を掴めない津波地震の理解のために欠かせない地殻変動の情報を得ることができ,地震発生の物理メカニズムが海底カルデラの火山活動に密接に関係することを示した. 一方で,地震規模・地震発生機構解および津波の規模の点で,鳥島近海地震とよく類似する津波地震が,2017年12月にニュージーランドの北方沖ケルマディック諸島近海で観測され,新たに解析を始めた.過去のデータを遡ると,2009年2月にも同様の津波地震が同海域では発生していたことを発見し,これら2回の津波地震について,検潮記録および海底水圧計記録から津波記録を収集し,津波伝播の差分計算等の解析行い,鳥島近海地震と同様,この海域での津波地震が海底カルデラと関連していることを明らかにしている.この結果は,2018年5月の地球惑星連合大会で発表する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
第一に,鳥島近海地震およびケルマディック諸島近海地震について,津波伝播の数値計算をさらに進め,潮位計や海底水圧計などで観測された津波記録の再現を目指す.これまでの研究から,これらの地震による津波は,一般的な断層すべり地震に伴う津波よりも短波成分に富んでいることが分かっているため,どの支配方程式を用いて数値計算を行うかを詳細に検討した上で,数値計算を行う.また,過去の津波との波形の類似点や相違点に対しても考察を行う. 第二に,火山性地震としての観点から,地震発生の物理メカニズムとして有力な「水平クラック開口に伴う環状断層すべりモデル」を想定し,境界要素法を用いた地殻変動計算を行う.2017年AGU大会で議論した研究者との共同研究が始まっており,計算手法を習得した上で,津波解析に基づいて推定された地殻変動を再現するような物理パラメータの制約を行う. 第三に,各火山性津波地震に対して,地震波解析を進める.主にモーメントテンソル解インバージョンを行うが,等方成分ゼロの仮定を外すことや,津波解析で求まった波源位置を震央として制約するなどして,多角的な情報を考慮して解析を行い,観測波形をどれほど再現できるかを調べ,その地震発生の物理メカニズムについて検討する.また,同海域での地震同士を比較し,類似点・相違点を調べ,その繰り返し発生する原因に対して検討する.
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