2017 Fiscal Year Annual Research Report
Systematization of the Armenian Church Decoration
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17J02973
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤穂 菜摘 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 装飾の実用性 / 装飾、建築、儀礼の有機的な関連性 / 建築物の役割と装飾 / 現地フィールドワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、自身の研究課題であるアルメニアの教会堂における図像プログラムの体系化に鑑み、アルメニア共和国の4件の教会堂を取り上げ、建築装飾としてのレリーフがどのような図像プログラムを構成しているのかについて、研究発表および論文執筆を通して考察した。 アルメニアの教会堂装飾で本研究のような図像プログラムの可能性が考えられることはこれまで皆無に近かった。建築装飾としてのレリーフは、建築に付随するオーナメントとしてその意味が深く解釈されることはなく、あるいは図像の象徴性に議論が留まり、その象徴性と建築のもつ機能や周辺で行われる儀礼との関連に関しては看過されてきた。本研究では、レリーフの図像が象徴する意味に加えて、それが特定の建築部位を飾る意義を考察することにより、看過されることの多かったレリーフが単なる装飾ではなく、建築の機能やそこで行われる儀礼等と関連した役割をもつ媒体であると示しえる点で重要といえる。 多様な図像あるいは特徴的な図像をもつことから今年度は4件の教会堂を選択した。各図像の意味を図像学の視点から考察した上で、図像の選択に見られる意味や、建築部位への配置とその部位がもつ機能、儀礼等の図像を取り巻く周辺環境に着目した結果、各々の建築や建築部位がもつ役割、そこにおける儀礼と対応した図像プログラムが見出された。具体的には、主教座という公的な場でありながら戦死した寄進者の先祖を弔う私的な空間であったこと、堂内における洗礼の場であること、来訪者が堂内から退出する際に見る建築部位であること、一族が埋葬される場であることが、検討した4件それぞれのプログラムを解する鍵となった。また図像プログラムを考察することによって、従来看過されてきた建築装飾が担う役割を示すとともに、図像自体の象徴性を図像学の視点だけではなく、配置された環境からより正確に捉えることが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初見込んでいたように、一定数のレリーフをもつ教会堂では、建築の機能や建築部位におけるレリーフの配置等の建築的な側面、また教会堂における儀礼等のキリスト教の教義的な側面から、レリーフに表された図像の意味を考察し、建築全体における図像プログラムを見出すことは可能であるとわかった。この点で、図像プログラムの体系化を進めるための前提条件は整ったと言える。平成29年度は、アルメニア共和国における4件の教会堂を取り上げ、図像プログラムについて2回の発表と2本の論文を通して考察をおこなった。発表での反応を受け、意見を取り入れながら研究を進められたことは、自身の見識を見直し、考察を深めるためにも有効であったと考えている。また夏季のアルメニア現地調査では、既知のハコブヤン教授から事前に送付していた修士論文に関する意見を賜った。特に、教会堂の年代設定に関する問題点は図像プログラムの体系化を行う基礎であるため、早期に認識することができた点に鑑みても、研究は修正を要しながらも概ね進展に向かっていると考えられる。 取り上げた4件とも図像プログラムを指摘することができたものの、特徴的な図像をもつ教会堂が多数を占めたためか独自性が強く、これらに一貫性は見られない。加えて、結果的に共和国中部から中南部の教会堂に集中してしまったことは反省点である。申請者が目指す図像プログラムの体系化を進めるためには、より多くの事例を広範囲に渡って収集する必要があると痛感し、特に地域性が強かったと考えられる中世のアルメニア東部の状況に鑑みれば、より地域を細かく分けて検討すべきである。先行研究に乏しく、象徴的なモティーフの多いアルメニアの教会堂の装飾を図像学の点から考察し、それを基礎に図像プログラムを見出すことは容易ではない時間を要する作業ではあるが、より地域性に富む事例を収集することが早急に必要と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者が対象としている現在のアルメニア共和国は中世のアルメニア東部に位置する。当時は数々の地方領主によって各地域が支配されていたため、図像プログラムの類似性や相違性を見てその体系化を進めるために、時代より地域を意識する必要があるのではないかと研究を進めていく中で考えるようになってきた。そのためには地形等の地理的な知識をもち、文化の動きとも言うことが可能な人の動きに関しても新たに考察する必要性があると考えている。今後の方針としては、未だ手付かずの中部~北部において図像プログラムが見られると予想した教会堂を選定し、引き続きプログラムの事例を収集するとともに、異なる地域間での事例の比較を行い、上記で述べた地理的条件と人の動きも考慮することにより、その体系化を進めていく予定である。 また、当初はあまり重視していなかった写本挿絵と建築装飾との関連性も考えていく予定である。一般にアルメニア写本で用いられる図像とその教会堂の装飾に用いられる図像はモティーフ選択の点で大きく異なるが、福音書の冒頭数頁に渡る対観表、各福音書の扉頁、ヘッドピース等で見られる建築的モティーフはその象徴的な機能から注目に値すると考えている。対観表の場合は、4福音書の該当頁を対比的に表す必要性から、空間を区別する建築モティーフが便宜上選択されたとも推察されるが、始まりや節目を表す頁に扉口を模した建築モティーフが挿入され、しばしばその周囲が教会堂の装飾でも見られる動物を主体とした象徴的な図像で装飾されていること、文字を伴いその挿絵の役割に明確な意味を考えられることから、建築装飾における図像の象徴性を考える上で写本挿絵から得られる示唆は有益なものになることが推察される。
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Research Products
(4 results)