2017 Fiscal Year Annual Research Report
エフェクター遺伝子集合領域に着目した植物病原糸状菌の感染戦略の解明
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17J02983
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
津島 綾子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 植物免疫学 / 植物病原糸状菌 / エフェクター / 比較ゲノム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
エフェクターは植物細胞をかく乱することで、植物病源体の感染成立に寄与する、重要な分子である。申請者はシロイヌナズナに感染するColletotrichum higginsianum のゲノム上に感染を協調的に促進している可能性のあるエフェクター候補遺伝子の集合領域を見出した。本研究の目的は、これらの領域にコードされた病原性に寄与するエフェクターを見出し、その植物細胞内の標的因子の同定を含めた機能を解明することである。 本年度は、エフェクター候補遺伝子の集合領域に座上する、エフェクター候補遺伝子CCE1に着目し研究を進めた。CCE1の病原性への寄与を調べるため、本遺伝子の破壊菌株と過剰発現菌株を作出し、病斑面積を指標とした病原性の評価系を整備した。さらに、エストラジオール誘導性プロモーターを利用することによって、CCE1のシロイヌナズナ形質転換体を得ることに成功した。この植物でCCE1の発現を誘導すると、植物の細胞死が観察されたため、CCE1が植物の細胞死を誘導し、感染を促進しているエフェクターである可能性が考えられた。また、日本産とトリニダード・トバゴ産のC. higginsianum菌株間の比較ゲノム解析を行い、両者の間に、大規模なゲノム構造の変異と株特異的なエフェクター候補遺伝子が存在することを発見した。さらに、これらの変異の多くがトランスポゾンの近傍で起こっていることも明らかにし、本種のゲノム変異の獲得にトランスポゾンが重要な役割を有している可能性を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CCE1を発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出し、CCE1の発現が植物の細胞死を誘導することを明らかにした。また、本遺伝子の破壊菌株と過剰発現菌株も作出した。研究計画に従い、CRISPR/Cas9システムによる破壊菌株を試みたが、破壊効率が悪かったため、CCE1以外の破壊菌株を作り病原性スクリーニングを行うには至らなかった。しかし、病斑面積の画像処理による病原性の評価系が整備できたため、今後はCRISPR/Cas9システムあるいは従来法で作出した破壊株の表現型を、効率よく検出できると考えている。当初の計画にはなかったが、自身が解読した日本産のC. higginsianum菌株と、他の研究グループが発表したトリニダード・トバゴ産の菌株の比較ゲノム解析を行った。その結果、有性生殖世代が報告されたことのない本種において、ゲノム変異の獲得にトランスポゾンが関与している可能性が示唆された。この比較ゲノム解析の成果は、その重要性が認められ、The 14th European Conference on Fungal Geneticsで口頭発表に選出された。
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Strategy for Future Research Activity |
作出したCCE1の破壊菌株と過剰発現菌株の感染実験を行い、本遺伝子の病原性への寄与を調べる。他のエフェクター候補遺伝子についても、破壊菌株の作成を試み、感染実験を行う。また、エフェクターの作用機序を明らかにするため、その植物細胞内の標的の同定にも取り組む。申請者は平成30年度 若手研究者海外挑戦プログラムに採択され、英国The Sainsbury Laboratoryに留学し、エフェクター標的因子の同定法を習得する予定である。以上より、植物病原糸状菌の感染戦略の実態を分子レベルで理解することを目指す。
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Research Products
(10 results)