2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本における略字体を対象とした漢字字体史記述の基礎的研究
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17J02985
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
菊地 恵太 東北大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 漢字字体史 / 略字体 / 異体字 / 抄物書 / 文字・表記史 / 分析的傾向 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主に1.様々な字体構造を持つ略字体の発生及び普及の様相を明らかにする通時的研究 2.書き手の社会的位相による略字使用の差異を明らかにする共時的研究 という二つの観点から研究を進めた。 1.「渋(澁)・摂(攝)」等に見られる畳用符号(繰返し符号)を取り上げ、この符号を利用した略字体がどのような過程を経て普及するか考察した。調査の結果、室町時代中期以降、順次当該符号による省略法が様々な字種に適用されるようになることが明らかとなり、こうした変化を略字の生成・使用過程における一種の「分析的傾向」と位置付けた(日本語学会で発表、論文を『日本語の研究』に投稿・受理)。 2.仏家と公家という位相の対立に焦点を当て、まず「佛」の略字「仏」について使用状況を調査した。平安・鎌倉時代においては「仏」字体の使用が公家による記録等に比べ、仏家による文書や写本に偏りやすい傾向にあることが明らかとなった。また室町後期以降は位相差が薄れ、他の字種「拂」にも同略記法が適用され「払」字体が生まれたことも明らかにした(論文を『訓点語と訓点資料』に掲載)。さらに、従来慣例的に「抄物書」と呼ばれてきた略字体(「菩薩」「懺悔」等の略)について、実際にどのような範囲において用いられてきたものか調査を行った。その結果、いわゆる抄物書はほぼ仏家専用というべき位相字体であるが、仏家の間でも使用のしやすさに階層性を有している点を指摘した(論文を『国語学研究』に掲載)。 上記とは別に、今後の漢字字体史研究における古辞書利用の便宜の為、筑波大学蔵本『下学集』全文のExcelファイルへの転記作業を進めた。諸本との校合等に時間を要したため上巻までしか完了していないが、完了部分だけでも単字検索や各字種の用例数、使用頻度等を抽出することが可能になった。今後作業を進め資料の拡充を図りたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は個別の字体史研究を中心に進めたが、複数の字種についてある程度の字体史を記述することができた。また、それぞれの研究成果について口頭発表、投稿論文で公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現段階で研究計画に問題はなく、今後も研究計画に沿って研究を進める。引き続き個別の字体(例、「萬→万」「勵→励」の類)について研究を進めるとともに、調査に利用する文献の整理を進めたい。
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Research Products
(4 results)