2017 Fiscal Year Annual Research Report
Constructing and Reconstructing the Irish and the Papist in Britain, c.1560-1660
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17J03024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
槙野 翔 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | アイルランド史 / 近世史 / 文化史 / ブリテン諸島史 / 西洋史 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画の第一段階として、①二次文献と既に収集した一次史料から17世紀のアイルランド統治の具体的様相を解明する、②分析の成果を国内外で口頭発表として公表し、同分野・隣接分野の研究者から意見を得て今後の論文執筆計画を立てる、③在外史料調査および東京大学図書館のリソース調査から追加の史料を収集・整理する、の3つを中心に実施した。本科研費は特に③の在外調査に充てられた。 ①と②の成果として、3度の口頭報告を行った。特に第115会史学会大会例会で報告された『三王国戦争期アイルランド反乱被害者供述書出版』は発表内容を原稿化して投稿論文として出版するため、現在指導教員と相談を重ね、執筆している。 また③で新たに1641年に始まるアイルランド反乱勃発時のアイルランド総督府文書や反乱被害者調査委員会文書等を収集した。その結果、総督府政治家・国教会聖職者らの利害および彼らの他者認識の双方について考えていく必要があるという見通しを得た。これは被害者供述のミクロ的な分析に集中しがちな、昨今の研究状況に、それらを主導したエリートの視点を加えることが出来、統治という面から表象について考えることが出来るようになる。この見通しを補強する材料として、1650年代ロンドンの科学者サークルである「ハートリブ・サークル」の書簡データベースおよび、1650年代の反乱被害者供述パンフレットを入手したので、今後これらを組み合わせて実証的に論じていくことが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、おおむね順調に進展していると言える。 修士論文では1640年代に時代を絞っていたため、1641年の反乱に至るアイルランドの政治状況、統治のありよう、原住民と植民者の競合関係、宗教改革の進行についての知識に乏しかった。そこで本年度の特に前半は、いわゆる「長い17世紀」全般のアイルランド統治について多くの2次史料を渉猟し、大きな枠組みの理解に努めた。また元々の専門である政治史・宗教改革史・文化史のみならず、経済史や科学史の研究成果の受容にも積極的に努めた。そうすることで、当時の科学者集団であるハートリブ・サークルとアイルランド統治は切り離すことのできない問題であることがわかってきた。具体的には、ジェラルド・ボートなる人物の手になる『アイルランド自然誌』は総督府政治家の助力により執筆され、ハートリブによって出版された。科学的な知によって植民地統治の一側面が担われていたのである。 彼らの書簡は、無料オンラインデータベース『ハートリブ・ペーパー』として、公開されており、参照が容易である。その他にも、今回の史料調査により、1640年から1660年についての史料はある程度整理されていることが確認できたため、それら20年については研究期間内に当初の計画通りの詳細な分析が可能であると考えている。 それ以前の時代については次年度以降の課題である。現在、1630年代については、当時のアイルランド総督ストラフォード伯トマス・ウェントワースによるカトリックエリートへの宥和政策が招いたプロテスタント間の政治的対立については調査を始めている。 また、本年度7月のイギリス革命史研究会例会、10月の近世イギリス史研究会例会、11月の史学会大会と、3回の口頭発表を行うことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度の研究活動の中心は、①西洋史学会において1年目の研究成果について研究発表を行う、②現在手元にある史料の読解を完了させ、イギリス・アイルランドでの更なる史料調査を行う、③1640年代アイルランド反乱での他者言説の分析についての論文執筆(投稿先:歴史学研究)、④トリニティ・カレッジ・ダブリンへの指導委託による留学の4点に集中する。活動の拠点を、前期は東京大学に置き、9月以降の後期からダブリンへと移す。 ①については4月後半にイギリス革命史研究会において、5月に第68回 西洋史学会大会において研究発表を行うことが決定している。②特別研究員奨励費を利用し、8月~9月にかけて、1か月程度イギリス・アイルランドでの史料調査と研究打ち合わせを予定している。史料調査は、ロンドンのブリティッシュ・ライブラリー、ナショナル・アーカイブスのアイルランド総督府文書を収集し、ロンドン商人たちの植民への投資のありようについても調べるため、ロンドンのシティにあるカンパニ関連の文書についても渉猟する。④についてはすでに指導の了承して下さっているオーマイヤー教授に指導を受ける機会となる。アイルランド滞在中に、②の作業の上を発展させた成果を公表したい。
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Research Products
(3 results)