2017 Fiscal Year Annual Research Report
表面コーティングで切り拓くアルカリ原子超微細準位間の運動誘起共鳴
Project/Area Number |
17J03089
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
関口 直太 東京農工大学, 大学院工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | スピン緩和防止コーティング / パラフィン / 運動誘起共鳴 / 散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
周期磁化を持つ磁性体はその表面近傍に空間周期的な磁場を生じる。この空間周期磁場を原子が通過すると、時間的に振動する磁場を感じて、共鳴条件を満たせば磁気共鳴が起こる。しかし周期磁場は表面近傍に局在しているため原子は表面との衝突が免れず、この衝突によって原子のスピンの偏極(スピン偏極)が崩れてしまう。実験ではスピン偏極の大きさの測定を通して磁気共鳴を観測するため、磁性体表面へのスピン緩和防止コーティングが必要になる。スピン緩和防止コーティングとはその名の通り、衝突してもスピン偏極を崩さない性質のコーティングである。本年度は、原子の運動によって誘起される磁気共鳴を起こす際に重要となるスピン緩和防止コーティング表面でのアルカリ原子の散乱を調べる装置を開発し、実験を行った。スピン緩和防止コーティングにはパラフィンを採用した。散乱原子の検出は原子に共鳴する光を入射して蛍光をカメラで撮影して行った。散乱原子の数密度が小さいため蛍光が弱く、信頼できる実験データを集めるのに時間を要してしまったが、散乱原子の散乱角度分布や速度分布を測定できた。用意した全てのパラフィン膜での実験で、角度分布および速度分布はマクスウェル分布を示した。速度分布の解析から散乱原子の温度を求めると、パラフィン膜表面に入射した時の温度よりも著しく低く、パラフィン膜の温度と同等であった。これはすなわち、元々はパラフィン膜よりも高いエネルギーを持っていた原子が、パラフィン膜表面で散乱される際に膜表面によく適応したことを意味していると考えられる。パラフィン膜によるアルカリ原子の散乱を調べた研究は類がなく、本研究によって実験で初めて確かめられた。以上のような結果は速報的な発表を国際会議で行った。また、その後の進展も含めて、論文にまとめて早いうちに学術雑誌で公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
従来の計画ではアルカリ原子のパラフィンによる鏡面反射を期待していたが、鏡面反射は観測できず、散乱の基礎的な測定を行った。鏡面反射ではなく拡散的な散乱であったため信号が弱く検出に時間を要した。また、いくつかのパラフィン膜で同様の散乱を示すか確かめる必要があった。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験でスピン緩和防止コーティング表面で拡散的に散乱されることがわかった。拡散的な散乱の場合には表面に入射する原子ビームの速度分布と散乱原子の速度分布が大きく異なるため、散乱前後での磁気副準位間のスピン偏極度の測定は当初想定していた程容易ではなかった。一方で、超微細準位間の偏極の測定は比較的容易に行うことができることがわかった。そのため、当初の計画の磁気副準位での運動誘起共鳴は省略し、本研究の目標であった超微細準位間の運動誘起共鳴の実験に移る。
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