2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J03106
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 光 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | エピソード記憶 / 社会的報酬 / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトは他者との相互作用を通して多くの事象を学習する。しかしながら、従来のヒト記憶の研究は、社会的な相互作用による記憶への影響を仮定しない研究が大半であり、社会的文脈における記憶の心理・神経メカニズムについては不明な点が多かった。平成29年度には、社会的相互作用における「報酬」の記憶の神経基盤を解明することを目的として、健常若年成人を対象とする機能的磁気共鳴画像(fMRI)実験を実施した。実験の結果、行動データでは、他者との競争における勝利のような社会的相互作用に由来する報酬のアウトカムに関する記憶は引き分けや敗北のアウトカムに関する記憶よりも正確に再認され、勝利時には引き分け時や敗北時と比べてよりポジティブな感情が生起されていたことが示された。fMRIデータでは、報酬関連領域である内側眼窩前頭皮質と記憶関連領域である海馬との間の機能的結合が、報酬のアウトカムに関する記憶の再認成績を予測することが示された。これらの結果から、社会的相互作用に由来する報酬による記憶の促進には、報酬関連領域である内側眼窩前頭皮質と記憶関連領域である海馬の相互作用メカニズムが重要な役割を果たすことが示唆された。この研究成果は、第47回北米神経科学学会(Society for Neuroscience)のポスター発表や、日本心理学会第81回大会のシンポジウムにて発表済であり、現在、国際学術雑誌への投稿に向けて準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究実施計画の通りに、健常若年成人を対象としたfMRI実験のデータ取得を完了させ、その解析結果を国内外の学会で発表した。先行研究では、社会的文脈における記憶の心理・神経メカニズムについてはほとんど検証されておらず、本研究で得られた知見は、社会神経科学の分野に対して一定のインパクトを与えるものであったといえる。現在は国際学術雑誌への投稿を間近に控えている段階にあることを考慮すると、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度には社会的文脈における記憶の神経基盤に対する加齢の影響を解明することをめざす。進捗によっては、脳画像データの個人差と社会的文脈における記憶能力や社会的相互作用に含まれる要素的処理の個人差との関連についても明らかにすることをめざす。これらの目的を達成するため、約70名の健常高齢者を対象としたfMRI実験のデータ取得を完了することをめざす。被験者は神経学的に正常で、精神疾患の既往のない右利きの健常高齢者とする。体内および体表に金属がある者や極度の近視の者、閉所恐怖症の者、妊娠中もしくはその可能性のある者は被験者の対象とはしない。被験者はシルバー人材センターなどの人材派遣業者から派遣された者を対象とする。実験終了後には、実働時間に応じて謝金もしくは謝品を支払う。実験の実施時には、すべての被験者に対して、事前に書面と口頭による実験の説明を十分に行い、その上で、本人の参加意思を書面と口頭で確認する。被験者の同意が得られた場合にのみ実験を行い、十分にトレーニングを積んだオペレーターが機器の操作を行うことで、安全性を確保する。すべての被験者には、MRIの禁忌事項に抵触することがないかを十分に確認する。実験後には、アンケートを行うことで、体調に異変がないかを確認する。取得したすべてのデータはIDナンバーを付すことで匿名化する。fMRIデータや行動データは、ハードディスクに電子ファイル形式で保存し、心理検査などの紙媒体のデータは、鍵付きの保管庫に保存する。被験者の同意が撤回された場合には、対応するデータをすべて削除する。高齢者を対象とする研究の成果については、国内外の学会で発表する予定である。想定している学会は、国内では日本心理学会、国外ではSociety for Neuroscienceである。また、研究の成果を論文として国際学術雑誌に投稿する予定である。
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