2017 Fiscal Year Annual Research Report
孤立量子系における有限時間・有限サイズの統計力学の探求
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17J03189
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
濱崎 立資 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 孤立量子系 / 熱平衡化 / 量子カオス / 典型性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は孤立量子系を中心とする多体系のダイナミクスと熱平衡化について多くの成果を得た。一つ目の成果はfew-bodyの物理量の行列要素の非典型性に関するものである。孤立量子系の熱平衡化の十分条件として、物理量の行列要素に関するEigenstate thermalization hypothesis (ETH)と呼ばれる仮説が注目されている。この仮説がなぜ正しいと期待されるかという数学的アプローチとして、ユニタリーハール測度に基づいた典型性の議論が提唱されていた。しかし我々は、いくつかの条件のもと、現実的に興味のあるfew-bodyの物理量に対しては、そのほとんどに対し行列要素がハール測度に対し非典型的に振る舞うことを数学的に厳密に示した。これは、実験などで興味のある状況では典型性の議論がETHを説明できないことを意味する。この結果はいくつかの国内・国際会議で発表し、またPhysical Review Letter誌に掲載された。 二つ目の成果は量子カオス系における非可換性の増大の機構の解明についてである。近年、異なる時間に対する演算子の非可換性(具体的には、演算子の交換子の二乗)が量子カオス系を特徴付ける量として着目されている。交換子の二乗は三種類の異なる項からなる。先行研究では熱平衡状態に対し、ある一つの項のみが非可換性の増大に寄与することが知られていた。一方我々はカオスを考える上で自然な状態である非平衡状態を仮定した。その結果、熱平衡状態で注目されていない項のみが非可換性に寄与することがわかった。そしてこの項が、非平衡状態がダイナミクスに対する不可逆性の指標になっていることを明らかにした。この結果をいくつかの国内会議で発表した。 また、共同研究として、時間結晶に関する研究、粗視化ダイナミクスに関する研究がPhysical Review Letter誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において一つの大きな課題はエネルギー固有状態で挟んだ物理量の行列要素とランダム行列の関係を明らかにすることであった。これに対し今年度は、ランダム行列の適用限界を数学的に厳密に議論することができ、重要な成果であったと考えている。特に、この成果は長年にわたり信じられて来た典型性の議論によるETHの説明を否定するものであり、孤立量子系の熱平衡化の起源の解明に関する大きな一歩である。 また、研究計画の目的の一つである「有限時間の統計力学の解明」に対し、量子カオスに関する成果を得ることができたため、これに関しても順調に進展したと考えている。量子カオスは多くの量子系の初期の(有限時間での)ダイナミクスに現れる普遍的な性質である。具体的には、量子カオス系では非可換性の増大という量子的な概念と、不可逆性という統計力学的な概念が密接に結びついているということを明らかにすることができた。 また、共同研究である時間結晶に関する研究、粗視化ダイナミクスに関する研究も有限時間の統計力学を解明する上で重要な結果であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、量子カオスについての研究を進め、論文にまとめる予定である。また、この量子カオスの普遍的性質を理解するために、カリフォルニア大学バークレー校のEhud Altman教授と共同でSachdev-Ye-Kitaevモデルのダイナミクスについても研究している。このモデルは量子カオスの典型的なモデルであるが、その半古典的対応物からカオスの起源が理解できる。このモデルを用いて、拡散など他の非平衡統計力学の性質も調べられると期待している。特に、系に遅く緩和する物理量があれば、二年目に計画していた「流体的拡散」の統計力学を明らかにできると期待している。 また、これと並行して、孤立量子系の熱平衡化において重要なクラスであるmany-body localizationを起こす系を非エルミート系に拡張することも行う予定である。非エルミート系は近年、開放量子系を記述する系として注目を浴びているが、そのフォーマリズムは孤立量子系と密接に関連がある。Many-body localizationと非エルミート性の競合を調べることで、「孤立量子系の統計力学」の環境に対する安定性などを議論できると期待している。
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Research Products
(11 results)